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今日は2月10日、私立武蔵広大高校の受験日である。
「それじゃあ、いってきます。」
「はい、いってらっしゃい。がんばるのよ。」
浅野淳は朝の一通りの支度を終え、家を出る。
今日は二度目の高校受験であり、小、中学校受験をしなかった淳にとって人生で二度目の受験である。
当然のことながらとても緊張している。
さらに今回受ける高校が本命なのでその緊張はとても大きい。
「ふう。武蔵広大の傾向はしっかりと勉強したし、大丈夫だよな。」
「なあーに真剣な顔してんだよ。そんなに朝からテンパってると本番で息切れするぞ。」
と、一人の少年が淳に話しかけてきた。
「やあ、雄二。僕はだいじょうぶだよ。雄二のほうこそどうなんだい?」
「大丈夫に決まってんだろ?」
「そうか。それにしても雄二、いまさらだけどどうしてもっと高いところ受けなかったんだよ。雄二ならもっと上のほう狙えただろ?」
「へへへ。まあ狙えるには狙えるけど、あんまり高いところ狙うと勉強勉強で息が詰まるだろ?確かにいい大学とかに行くのも大事だとは思うし、俺としてもいい大学にはいくつもりだ。だからって高校生活すべてをつぶそうとは思わねえわけよ。楽しく高校生活して、時間が空けば勉強する。こうやって勉強時間さえしっかりとっておけば、勉強なんてできないもんじゃねえんだよ。ただほかのやつらは時間があってもやろうとしないだけでさ。」
「へえ、しっかり考えてるんだな。まあ中学のころから雄二はそうやって勉強してて、成績はとてもよかったからね。」
「あたりまえよ。しっかり勉強していい大学に入る。こうすればモテモテよ。」
「ははは。相変わらずもてることが最優先事項なんだ?」
「当然!」
彼の名は谷本雄二。
淳の小さいころからの友達で親友と呼べる男だ。
話の流れからもわかるとおり、かなりの女性好きで女性にモテたい、という理由からかなり勉強をしており、学年で確実に10位以内に入るほどである。
スポーツも決行でき、さわやかな顔立ちを持っている。
しかし、自分の女性好きということを一切隠さず、女性に対してもどんどん自分をアピールしており、女性からはひかれているのでモテない。
さっぱりとしていて、裏表のない性格なので同姓からは彼を慕っているものはかなり多いというから皮肉な話だ。
「っと、もう着いたな。」
「うん。武蔵広大は家から近いからね。」
「ああ。それも俺がここを選んだ理由のひとつだぜ。家から近けりゃ遊ぶ時間も勉強する時間も増えるからな。」
「じゃあぼくらの教室違うみたいだからここで。」
「緊張しすぎてもらすなよ。」
「もらさないよ。」
こういいながら淳は内心雄二に感謝していた。
こうやって淳の緊張をさりげなくほぐしてくれているのだ。
実際、このようにして雄二は幾度も淳に貢献している。
今回の受験も淳は何度も雄二に世話になった。
(さ、雄二にここまでやってもらったんだから受からなきゃ申し訳が立たないよな。全力を出し切ってがんばろう。)
淳はテストをすらすら、とまではいかないまでもしっかりと回答することができた。
また、その自信が面接に対してうまく働き、さほど緊張することはなかった。
淳はこれ以上ないくらいの出来でないかと思うくらい、受験にうまくのぞめたのだ。
「あ、雄二。お疲れ。どうだった?」
少し暗いような感じの雄二に聞いてみる。
「だめだった。」
「え、本当に?」
そこで雄二はぱっと明るくなる。
「へっへっへっ。うそだよ。できたに決まってんだろ。」
「何だよ、びっくりさせないでよ。」
「はっはっはっ。見事に引っかかってやんの。しかしそれにしてもラッキーだったな。数学の最後の問題ちょうどこの前学校で先生がテストに出る可能性があるっていってたどこだったじゃないか。」
「うん、本当だね。やっぱり自分で自分のことを『俺を信じて勉強すれば受かるぞ』、とか言ってる先生なだけのことはあるんだね。」
「ああそうだな。はじめそのセリフを聞いたとき、『は?なに言ってんだこいつ』、とか思っちゃったけどな。」
「うん、僕もそんなようなことを思ったよ。ん?あれ?」
「どうした?」
「ごめん、試験会場に財布落としてきたかもしれない。ちょっと見てくるから先に帰ってて。」
「おう、わかった。しかしこれでお前は確実に受かったな。」
「へ?どうして?」
「だって受験が終わってからすぐに学校に用ができるなんて縁がむちゃくちゃあんだよ。」
「なるほど、そういわれてみればそうだね。」
「だろ?じゃあ先にかえってるぜ。」
「うん。受験が終わったら遊ぼうね。」
「パーッとはめをはずしてな。」
幸いなことに淳の財布は試験会場の受付に届いており、中身も無事であった。
「はぁー、よかった。」
そんなことをいいながら大通りを歩き帰宅している途中、何か聞こえたような気がした。
「やめてください。」
「?」
別に気にする必要もないし、ひょっとしたら空耳かもしれなかったが、受験で成功したと浮かれている淳はその声がしたようなところにいってみることにした。
「なっ。」
そこは大通りからは死角になっている路地裏。しかもちょうど大通りの車の音などでその路地裏から出る音はほとんど大通りまで聞こえないようであった。そんな場所で一人の気弱そうな女の子が明らかに柄の悪い4人の男に囲まれていた。
「だから何もしないって。ただ俺たちは少しお金に困っているから恵んでほしいだけよ。」
「そうそう。そんなわけでお嬢ちゃんの財布の中身全部くれないか?」
「お、お願いします。お願いしますからやめてください。」
「さっかからうるせえんだよ!」
「きゃっ。」
男のうちのひとりが少女を思い切り殴る。殴られた少女は飛び、地面に倒れる。
「とっとと金をよこせっていってんだろ。そうしねえともっと痛い目にあわせんぞ!ああ?」
「うう。」
淳は呆然としてこの様子を見ていた。いきなりこんなシーンに出くわしたのだから当然かもしれない。淳はしばらくして思った。
(でもどうすればいいんだ?ぼくが行ってもあんなやつら倒せないだろうし、大通りに行って助けを呼んだとしても助けを呼びにいってる間にあいつらに逃げられてしまうかもしれない。くそ、どうすれば。)
「きゃあっ。」
淳が考えている間にもう一度その少女は殴られる。
「っ。」
気がついたとき、淳は飛び出していた。
「やめろ。」
「ああ?なんだおまえ?」
「そ、そのこを、は、は、はなしてやれ。」
「なに言ってんだお前?それともあれか?お前がこいつの代わりに殴られてくれるってことか?そうかそうか。わかった。じゃあ死ね。」
「えっ?」
淳のはらを思い切り殴られる。喧嘩なんてしたこともない淳ははらを殴られたこともない。おなかを押さえて沈み込んでしまう。
「ほらどおした?せっかく助けに入ってきたんだろ?ちょっとはかっこいいとこみせねえか?よお!」
今度はうずくまっているところを思い切りけられる。
「ぐふっ。」
「や、やめてください。お金なら払いますから。」
「そうか、ようやくわかってくれたか。でも少し遅えよ!」
「きゃあ。」
少女は思い切り殴られる。そして又地面に崩れ落ちる。だが男たちはそんな彼女に対しても執拗に暴行を加える。
(くそ、ぼくにもっと力があれば。な、何でもいい、彼女を。何でもいいから彼女を守ってくれ。)
「ぐふっ。」
淳が思った次の瞬間、何かが男のうちの一人に向かって飛んでいき、そして思いっきり男のうち、一人を吹き飛ばした。吹き飛ばされた男はその衝撃で気絶してしまったようだ。
「何だ、何が起こったんだ?」
「何でまさやんが吹っ飛んだんだ?」
男たちは困惑した様子で話し合う。状況がまったくつかめていないようだ。しかし淳はしっかりその眼で見ていた。何がまさやんと呼ばれた、先ほどから淳や少女に暴行を加えていて男に飛んでいったのかを。そして同時に、精神的に奇妙な疲労感を抱えていた。
「お、おい。おれ、見てたんだ。マンホールからなんかが飛び出してきてそれがまさやんをふっ飛ばしたんだ。」
「な、なんかってなんだよ。」
男たちはまさやんとよばれている男を見る。まさやんとよばれている男の体はありえないくらいに濡れていた。まるでホースで水を思い切りかけられてかのように。
(ま、まさか。でも。いや、もしかしたら。)
淳は考える。今何が起きたか。そしてこの疲労感の正体を。
(いや、たぶんそうだ。あの時確かにそんな感覚はあった。マンホールのしたから、まるで自分の手足を操るかのようにあの水を思いっきり出したような感覚が。)
そう、まさやんとよばれる男を思いっきり吹っ飛ばしたものの正体はマンホールの下から突如現れた水なのだ。そして淳はそれを自分がやった可能性があると考えたのだ。
(確証はない。でも試してみよう。もしそれが本当なら、彼女を守れるんだから。)
そして淳は念じる。水よ動けと。そしてあの男たちをふっ飛ばせと。すると先ほど出てきた水がいっきに男の一人二トンで行き、男をを吹き飛ばす。
「ぐほっ。」
「な、なんだ?今度はかずやんが。」
「お、お前たち。」
痛いおなかを押さえながら必死に虚勢を張り淳は立ち上がる。その付近に水を浮かせながら。
「お、お前たち。とっととその子から離れろ。さもないとそこに倒れているやつらのようにこれをお見舞いするぞ。」
淳は手を差し出し、その手の前に一握りの水を浮かせる。
「ひ、ひい。化け物だ。」
「に、にげろ。」
そして男たちは倒れているやつらはほおって置いて逃げ出してしまう。
「ふう、何とか、何とかなったな。」
淳はいまさらながら腰が抜けてしまったのか、その場にへたりこんでしまう。
とそこえ、少女が来る。
「あ、あの、あ、あ、あ、ありがとうござ、ございました。お、おかげで助かりました。本当になんてお礼をいっていいか。」
「いや、いいんですよ。それに出てきたすぐは本当に役立たずで。すぐに助けられなくてごめんなさい。」
「い、いえいえいえ。いいんです。おかげで助かりましたから。ほんとうにありがとうございました。」
「いえ、どういたしまして。」
こうして淳の一日は過ぎていった。彼が力に目覚めた特別な日。普通の顔立ちで普通の学力。スポーツ感覚や美術なども普通。まさに普通の塊である淳が特別な力に目覚めた日。それは淳にとって特別な一日であった。