E−XAMY

   10

 淳は布団にもぐり、寝る準備をする。そして今日あったことを思い返すのだった。

 

 

 淳たちの返事を聞いた後赤羽は「よし。」といい、今後の方針について語り始める。

「わかった。だったらお前たちは強くならなければならない。だからこれから修行してもらう。」

 淳たちはもう決意を固めているので修行といわれても取り乱さなかった。淳は心では少し驚いていたが。

 そして赤羽は続ける。

「お前たちははっきり言ってまだまだ弱い。だから強くならなければならない。わかるな?」

「はい。」

「って、修行って何やるんすか?」

「それをこれから説明するんだろうが。お前はもっと空気を読め。」

 雄二はてへへと笑ってごまかす。赤羽はあきれてもう半分無視していた。

「さて。じゃあお前たちに問題だ。どうすれば強くなれると思う?」

 赤羽は二人にそんな抽象的な質問をくりだす。

「強くって、能力者としてですか?」

「ああそうだ。ごめんごめん、その前提を言うのを忘れていたな。」

 能力者として強くなる。

 淳はそのことについて深く考える。

 いったいどうすれば能力者として強くなるのだろうか。

「はいはい。そんなの簡単じゃん。能力を鍛えていって、超強くすればいいんだよ。」

 雄二は簡単そうに即答する。が、赤羽は首を振る。

「いや、ちがう。確かに能力を強くしていけば強くなるが、それじゃあ勝てないな。」

 その言葉で淳はひらめく。今までの少ない戦歴で勝ったときに必ず共通するものを。そう、それは何かを強く思っていたことだ。能力に目覚めた時だって麗佳を守りたいと強く思ったからこそ勝てたのではないか。だから淳はそう答える。強くなるには強い思いを持つことだと。

 しかしこれにも赤羽は首を振る。

「確かに強い思いを持てば能力者としてはかなり強くなる。それは間違いがない。だがそんなことはむりだろ。常に強い思いを持っているなんて。敵がいつ襲ってくるかもわからないし。」

 そのことをきいて淳はうなだれる。まさかこれが違ったなんて。その様子を見て赤羽はそのことが間違いではないといっておく。

「確かにおまえたちの言ったことも戦いを左右する重要なポイントだ。だが考えてほしい。お前たちに必要なのはずっと、少なくとも敵の組織がお前たちを狙うのをやめるとかするまでずっと勝たなきゃいけないわけだろ?一度の負けで死んでしまうかもしれないんだから。だからそれじゃあ駄目なんだ。雄二の言ったとおり、能力を鍛えるのも大切だ。淳の言ったとおり、つよい思いを持つのも大切だ。だがコンスタントに戦いに勝ち続けるのに必要なのは、敵の攻撃をしっかり見切る力。わかりやすく言えば回避率を上げることだ。」

 赤羽の言葉に淳たちはおもわず、『は?』と頭にクエスチョンマークを浮かべてしまう。

「いいか?戦いってのははっきり言えば負けない限り負けないんだよ。それはわかるよな?」

「それぐらいわかりますよ。」

 赤羽の意味不明な言葉に雄二は言葉を強くして答える。

「だからなんなんすか?」

「だから、負けない限り負けないんだ。つまり敵の攻撃を全部よけてこっちの攻撃を半分でも当てればほぼ絶対に勝てるだろ?つまり大事なのは負けないための。」

 見切る力だ、と赤羽は続ける。

 確かにそのとおりだ。敵の攻撃を一撃も受けなければ絶対に負けないだろう。だがそんなことができるのか。

「もちろん、絶対的に敵の攻撃をすべてよけるなんてことは無理だろうし、する必要がない時だってある。だが、そういうのは特殊なケースだ。敵の攻撃を見切る力がついてくれば、戦闘中でも比較的に落ち着けるからそういうシーンに出くわしても対処で知るはずだ。」

 雄二は納得いかない顔で質問する。

「じゃあ、能力は鍛えなくてもいいんすか?」

「そうはいってない。やはり能力は鍛えておいたほうがいい。だがどんなに鍛えたところでこちらの攻撃が当たる前に攻撃を受けてしまったら意味がないだろう。だからまずは敵の攻撃を見切ることなんだ。第一、敵を見切れるようになればこちらの攻撃も当てやすくなるだろ?」

「まあ、そうっすね。」

 雄二もやっと納得いけたのかそれとも折れたのか赤羽に同意する。

「そういうわけだ。だからまずは見切る力、動体視力と反射神経をつけたいと思う。それと平行して能力も鍛えていこう。異存はあるか?」

 そんなこといわれても淳たちには異存などあるはずがない。しっかりと理由を聞いたからだ。

「よし、じゃあこれでいいな。だけど今日は休め。明日も日曜だし、ゆっくりと体を休めておけ。春菜、あー、いや白石先生の能力はあくまで傷の治療であって疲れは取れないからな。」

「外出とかしないほうがいいですよね?」

「ああ。そうだな。とりあえず俺の携帯の番号教えとくから何かあったら連絡くれ。まあ連日で敵が現れるってこともないと思うが俺の勘も外れたしな。」

 そういうと淳たちは赤羽に挨拶をして教室から出て行くのだった。

 

 

 昨日今日でいろいろあったな、と淳は思う。いままで普通に暮らしてきていたのにいきなりこんなことになってしまうとは思ってもみなかった。

 たしかに大変なことが続いた。今までは何とかやってこれたがこれからはもっと大変になる。だが、これからは決意を持って先に進める。その決意は揺らぐこともあるだろうが、決してなくなることはないんだ。

 そんなことを思っている間に淳は眠りについていた。

 

 

 朝起きていつもどおりの日曜の朝を満喫した。いや、朝だけでなく一日中がいつもどおりの日曜だった。なんだかそれがとてもうれしく思えた。幸せというものは日常にあるものだと初めて感じた。

(こんな平穏を守るために。)

 淳は新たに決意する。

 

 

 夜寝る前にメールを確認すると赤羽からメールが来ていた。「明日の放課後に話そう。」という内容が書かれているものが淳と雄二宛におくられていた。

 もう一件メールが着ており、雄二からだった。「大変だけどがんばろうぜ。」という内容だったので「うん。がんばっていこう。」と返事を送った。

 寝床に着くと改めて日常はいいものだなと思った。今日の幸せな一日を思い返しているうちに眠ってしまっていたようで、電気をつけっぱなしで眠っていることに朝になって気がついた。

 

 

(昨日はぜんぜん思わなかったけど、いったい修行って何をやるんだろう?)

 淳は登校中から授業中までずっとそのことを考えていた。不安と少しの期待でどきどきだった。

 四時間目の授業が終わり、弁当を食べようと取り出したところはなしかけられた。声の主は麗佳だった。

「あ、あの。浅野君ひょっとして具合悪い?」

 淳は身に覚えのないことなので首を傾げてしまう。

「あ、大丈夫ならいいんだ。ただ、今日はなんだかいつもと様子が違ったみたいだから。」

 麗華はごにょごにょと小さな声で恥ずかしそうにいった。そんな麗華の言葉に淳は気がつく。今日の淳はずっと悩み事を考えていて、それが麗華には変に見えたのだろうと。

 そのことを麗華に伝えると「そっか。考え事だったんだ。うん、大丈夫でよかった。」と少し顔を赤らめて答えた。

「浅野君もなかなかすみにおけないね。」と麗華が去った後で後ろから声をかけられた。

「彼女?」

と後ろの席のやつがちょっかいをかけてくる。例の委員長、名前はたしか雨宮咲さんだ。淳はまじめに「い、いや。そんなんじゃないよ。」と答えるが咲はニヤニヤと笑っている。

「咲、早く学食行こうよ。」

「はーい、いまいくよー。」

 雨宮が友達に呼ばれ席に立ってようやく淳は解放された。

「今度詳しいこと聞かせてね。」とクラスを出ようとする雨宮は淳にいってきた。

 開放されていなかった。

 

 

 学校のベルが鳴る。

 やっと6時間目が終わった。とはいっても淳は今日は化学実験室の掃除があるのだが。

 ホームルームも終わり、化学実験室に向かう。正直淳は今日掃除にほかの男子はサボってこないかと思っていたのだが、ちゃんときてしっかりと掃除をしていった。そんな彼らを見て「へー。えらいじゃない。」と雨宮はうんうんうなずいていた。

 掃除を終え、担当の先生に連絡した後教室へ向かう。

はたして、いったいどんな修行をするのだろうか。

「お、よく来たな。まあ、まだ雄二が来てないからゆっくりしてていいぞ。」

 教室には淳と赤羽しかいない。雄二はまだ掃除中のようだ。

「先生。あの、修行っていったい何をやるんですか?」

 淳は朝からずっと考えていた疑問を赤羽にぶつけてみる。

「なにやるって、この間いわなかったっけ?まずは見切るための力をつけるんだよ。」

「い、いえ。そうではなくて。その、具体的には何をやるんですか?」

 ああ、と赤羽はいい、うなずく。

「そういうことか。そういや確かにこの間は何をやるかまではいってなかったな。まあ、その説明は雄二が来て場所を変えてから言うよ。」

「場所を変えるんですか?」

 淳は思っても見なかったことを耳にし、思わず聞き返す。

「ああ、そうだよ。だってよく考えてみなさいな。こんなに人がきやすいところで能力を実際に使って修行するなんてやばいよ。ばれるよ。」

 確かにそうだ。能力の話をするだけなら万一聞かれても問題ない。漫画の話をしていたとごまかせるからだ。だが実際に能力を使っているところを見られたら。多少なら手品といってごまかせるかもしれない。が、ごまかしきれないところも出てくるだろう。それにここだと思いっきり能力を使うこともできない。そう赤羽は付け足した。

「お、もうあつまってますね。」

 とそこで雄二が到着した。

「よし。雄二も来たことだし場所を変えるぞ。」

「へ?場所を変えるって……。ここでやるんじゃないんすか?」

 淳は雄二に今赤羽から受けた説明をした。

 

 

 淳たちは赤羽に連れられ、学校の近くの山まで来ていた。そこまで高くない山で、熊がいたりしないので別に危険はないのだがこの近くだけは住宅がなく、人が寄り付かない。なぜ開拓されていないのかわからないがずっと昔からここだけは人の手がほとんど加えられていない。

 淳たちは山に入り、少しだけ歩いていると何もない原っぱのような場所に出た。

「ここで能力の修行をやるぞ。ここなら人はまず来ないし、学校からも遠くない。まさに修行するにはうってつけの場所ってわけだな。」

 と赤羽はいう。そこで淳は改めて赤羽に質問をぶつける。

「先生。さっきも聞いたことなんですが、修行っていったい何をやるんですか?」

「何やるって見切る力をきたえんだろ。」

 先ほどの淳と赤羽のやり取りを聞いてなかった雄二は当たり前のように答える。これに対し、淳は先ほど赤羽に言ったことを繰り返す。

「ほら、この間は何をやるか具体的にはいってなかったでしょ。だから具体的には何をやるのか気になっちゃって。」

「ああ、そういえばそうだったな。」

 雄二はうなずく。そして赤羽に目をやる。赤羽がしゃべり始めたからだ。

「それじゃあ、修行について説明しようか。まず見切る力をつけるために、俺の攻撃をひたすらよけてもらう。ダメージはそこまでいかないように抑えておくが、スピードは結構速めで行くぞ。それとダメージを抑えるといってもまったくないわけじゃなく、少し痛いくらいにするからがんばってよけるんだ。」

 赤羽の説明に雄二は不満を口にする。

「えー、なんすかそれ。別に痛くしなくてもいじゃないすか。」

 だが赤羽は首を振る。

「いや、まったくダメージがないと手を抜く場合があるからな。だから必死でよけてくれ。」

 ぶーぶー、と雄二はブーイングをする。

「とにかくこれをやって動体視力、瞬発力、瞬間的な判断を身につけてもらう。目標は俺の本気を出した攻撃をしっかりよけれる程度になることだ。」

「それが見切る力をつける修行ってことですね。じゃあ、能力を鍛える修行ってのは何をやるんですか?」

「ああ。それに関してはまず何度も何度も能力を使って能力を使うことをうまくなってもらう。たとえば俺が投げたものにしっかりと操ったものを当てられるように練習したりな。幸い二人は両方とも何かを操る能力だから練習内容はしばらくは同じでいいと思う。とにかくいっぱい能力を使って力強く、器用に能力を使えるようにしてもらう。」

 そして赤羽は二人に質問はないかときく。

「先生、ひとつ質問があります。この修行ってどのくらいの時間やるのですか?あと、この修行のほかに自分で練習したりしてもいいんですか?」

 淳の質問に対してすこし悩んでから赤羽は答える。

「修行時間は二人の体力しだいって感じかな。見切る力をつけるための修行はともかく、能力の経験値を上げるための修行は結構精神エネルギーを消費するからな。まだ能力者として日のあさいお前たちじゃあそこまで長続きできないだろう。それと俺と一緒にいないときに特訓したいときは自分の体力と人の目をしっかり考えながらならやっていいぞ。ただ、体力をあまり消費しすぎないほうがいい。いつ狙われるかわからないし、一人のときにへろへろになって帰れないとかじゃあ困るからな。だから能力に関しては器用に操作できるようにするための特訓はいいとして、能力の力や持続力をあげるための特訓は一人ではあまりしないほうがいいかな。」

 二人は赤羽の答えにうなずく。

「よし、じゃあもう質問はないな?まあ何か聞きたいことがあったらいつでも聞いてこい。答えれるときは答えてやる。」

 赤羽はそしてそれじゃあという。

「さあ、はじめよう。」