
11
赤羽は手の甲を淳たちのほうに見せ、右手を胸らへんまであげる。そして親指をのぞくほかの指と指との間に長い針のような細長いものを持っていた。それは暗い色で、黒というより光をすべて吸収してしまっているようだった。そう、それは闇そのもののようだった。
左手を見てみるといつの間にか本を持っていた。おそらく、なにかしらの漫画だろう。
赤羽は右手を左手側に振りかぶる。そして淳に向かってそれを投げつけてきた。淳は驚き、かろうじてそれをよける。ぎりぎりで回避に成功する。生きた心地がしなかった。今度は雄二に向かって同じように投げつけた。雄二もなんとかかわす。
「な、なにするんすか!」
雄二は赤羽に向かってどなる。それに対し赤羽はさも当たり前のように答える。
「おいおい、さっきいっただろ?これは見切る力を鍛える修行だって。そして俺の攻撃をひたすらよけてもらうって。」
確かにいっていた。よけれなかったらダメージを受けるともいっていた。だがこれは予想していなかったほどにつらい。というよりも恐い。まさか本当にここまでの攻撃を仕掛けてくるとは思いもよらなかった。ダメージは少ないといっていたがこれでは信用ならない。全部の攻撃をよけきらないと、と淳は思っていた。
またもや淳に攻撃が飛んできた。しかも今度は先ほどより速く感じられる。これも何とかぎりぎりでよける。
赤羽はふっと笑うと次は雄二に攻撃を飛ばした。雄二もなんとかこれをよける。そしてまた赤羽は右手に闇の針を構える。そして淳に投げつけてくる、と思ったが今度は違った。今まで淳と雄二、交互に攻撃していたのに今回は雄二を連続で攻撃した。
雄二はこれに対応できず、腹に受けてしまった。
「ぐっ。」
雄二は少しおなかをさすったが、すぐに構えた。やはりダメージは赤羽の言ったとおり抑え目だったようだ。
赤羽はまたかまえてこんどこそ淳に投げつける。淳はぎりぎりでよけきれず少し頬にかすってしまった。本当にダメージは低めだったがさすがに何度も喰らいたくはない。次こそはちゃんとよけると淳は思うのだった。
30分くらい経ったであろうか。赤羽は棒を投げる構えをとるのをやめた。
「よし、見切る力をつける修行はここまで。じゃあ少し休憩したら次は能力を鍛える修行をしようか。」
そう赤羽は涼しい顔で言う。いくら手加減するために弱めであったとしてもあれだけ能力を使ったのにもかかわらず涼しい顔をできるのはやはり彼の実力が高いからだった。一方淳たちはもうへとへとであった。30分近く集中してなおかつよけるという体力疲労もあるからだ。さらによけれなかったときにくるダメージもある。淳たちはその場に倒れこみ、休むのだった。
と、そこで淳はふと疑問を思いつく。なので赤羽には悪いと思ったがねっころがりながら質問する。
「先生。あ、あの質問なんですが。」
「ん?なんだ?」
「これって敵の攻撃をみきる特訓なんですよね?」
「まあ最終的には敵の動きまで見切れるようになってほしいが、いまはそれだけでいいよ。」
「はい。それで質問なんですが、この修行を続けていても先生のその黒い針みたいなものをよけれるようにはなるかもしれませんがほかの攻撃をよけれるようにはならないと思うんですが。」
「どうしてだい?」
赤羽は否定せず、淳の意見を聞いてやることにする。
「だって、ほかの能力者たちはみんながみんな棒を投げつける能力ではないじゃないですか。」
赤羽はクスリと笑い淳に答える。
「いや、それなら大丈夫だよ。これをやるだけでもだいぶ動体視力や反射神経はつくし、第一攻撃のパターンはいくらでも変えられる。わすれたのかい、俺の能力を。俺の能力ならいくつものパターンの攻撃ができる。ただ最初のうちはこれで動体視力をしっかりとつけさせようと思っただけさ。」
赤羽の答えに淳はうなずく。たしかにそうだった。赤羽の能力はマンガの技などを使う力だ。だから技のバリエーションなんていくらでも変えられる。淳はそのことを失念していたことを恥ずかしく思った。
二人の体力がそこそこ戻ったところで次の修行に入った。次の修行はとにかく能力を思いっきり使い、能力の威力と持続力を上げようという修行だった。だから二人は思いっきり能力を使い続けようとしたがそれも長くは続かず、一分くらいするともう思いっきり能力を使えないくらい、精神的に疲労していた。能力でここまで疲労するのは二人は初めてだった。
「ほら、最初の威勢はどうしたんだよ。雄二なんか1時間は楽勝とか言ってたじゃないか。」
「ん、なこと、いったって。」
はあ、はあ、と息を切らしながら雄二は答える。やはり二人はまだまだ能力を覚えたてで能力の持久力や威力はなかった。
「はあ、はあ。」
淳も雄二ももう限界近くだった。そしてそれを見て、赤羽は二人にもうやめていいと許可するのだった。
「次の修行もあるからその辺にしておこうか。しばらく休みなさいな。」
二人はそれを聞いてやめるとその場で座り込む。淳は先ほどの修行もつらかったが今度の修行も別の意味で結構つらかったと思っていた。
しかしまさか能力の修行がここまですごいものだったとは思っていなかった。正直な話、楽勝、とまでは行かないまでもそこそこいけるんじゃないか的なことを雄二はおろか、淳すらも少し思っていたくらいだ。だからここまで疲労を感じるとは微塵も思っていなかったのである。しかし実際ここまで大変だということに驚きと苦しみを覚えていた。こんなことを毎日やると思うとしんどくなる。そんなことを考えてしまった。
15分位して二人の体力がある程度戻ったのを見て、赤羽は次の修行にいこうか、と指示するのだが、雄二が愚痴をこぼす。
「ちょっ、待ってくださいよ。もう俺も淳もへとへとっすよ。まだやるんすか。」
その雄二の言葉に赤羽はやれやれ、といった感じで答える。
「まあ、確かに能力を覚えたてでなおかつ実戦経験がない割にはかなりがんばってたと思う。でもやっぱり俺から見るとぜんぜん足りないんだ。ガッツはいいが、もっと全体的な力をつけないと。」
「ちっ。もういやっすよ〜」
雄二が思わず泣き言を言う。が、それに対して赤羽は明るい声を出す。
「まあ、安心しろって。とりあえず俺が考えてたメニューは次で最後だし、それも体力を使うって方じゃなくて能力をうまく使う練習だから体力はそんなに使わないはずだからさ。」
「ふ〜。わかりましたよ、おれもやるっていったからにはがんばります。ったく、これで強くならなかったらうらみますからね。」
「はははっ。わかってるって。それに安心しろよ。人間、なれないことをすると思いのほか疲れるが慣れてくれば大部楽になるはずだからさ。ってことで淳も大丈夫か?」
赤羽の言葉に淳はうなずく。
「はい、僕もやるといったからにはがんばります。」
「うん、その意気だ。じゃあ、とりあえずやることを説明しようか。」
そして赤羽は説明をし始める。
「まず俺が一回目の修行のときにやったみたく針を投げる。っといってもお前たちに向かってじゃなくて適当なばしょに、だ。それにお前たちの操るものを威力は少なくていいから当ててもらう。OKか?」
「えっ、そんなことで能力を器用に使えるようになるんですか?」
その淳の問いに赤羽は笑顔で顔を振り、否定する。
「まさか。こんなのだけじゃあうまくはならんよ。だが、お前たちにはこんな簡単な事でも相当難しいはずだ。理想を言えば能力で操るものを自分の手足のように器用に使えられたらいいんだがな。ま、とにかくやってみろよ。相当難しいはずだから。」
そういうと赤羽はてに闇の針を出現させ、適当に自身の右上に投げる。速さは先ほどと違って早くない、むしろ遅いくらいだ。
「おらっ。」
それにすぐに反応して雄二がライターに火をつけて棒めがけて火を飛ばす。が、棒にはあたらない、どころか棒との距離が20センチくらい離れていた。
「うをー。なんでだー。」
「おいおい、谷本。もっと弱くていいんだから落ち着いてしっかり狙ってそして丁寧にやれよ。そら、じゃあ淳も行くぞ。」
そういうと赤羽はまたあらたに右手に闇の棒を出し、今度は左上に投げる。やはり今回も決して速くない。
「っ。」
淳も能力を使い、棒めがけて水を飛ばす。先ほど雄二が失敗したようにしないよう、威力は弱めでも丁寧に、しっかり狙って水を放った。
しかし水は棒には当たらず、棒のした10センチくらいを飛んでいった。
「あ、あれ。あたらない。」
「だろ。まずはこれくらいできるようにならんとな。」
言い終わるとまた赤羽は闇の棒を飛ばす。それに向かって今度は淳、雄二の両方ともが自身の操るものを飛ばす。
「ちょっ。こら谷本。お前また強くし過ぎだっての。」
この修行も10分くらいしか持たなかった。先ほどの疲れもあるがこれだけみてもやはり疲れる。とはいってもあれだけ疲れた後にこれだけできるのだからそこまででもないみたいだが。まあそれでも雄二は加減できないのかずっと能力を強く使いすぎていたが。
「お疲れ様。今日はこのくらいにしておこうか。」
「はい。」
「へーい。」
赤羽の言葉に二人は返事を返す。やっと今日の特訓は終わりである。とはいっても時間的にはそこまでたっていないのだ。一時間半くらいしかたっていないのだから。
「さて、じゃあ今日は二人に宿題を出しておこうかな。」
赤羽が言うと雄二はあからさまにいやそうな顔をする。
「ちょっと待ってくださいよー。こんだけ疲れてんのにまだ宿題までだすんすか?いじめっすよー。」
「まあ、安心しなさいな。宿題っていってもたいした内容じゃないから。」
「じゃあ何やるんすか?」
雄二は聞く。それに対し、赤羽は答える。
「自分の能力に名前をつけてきてもらう。」
淳と雄二は思わず顔を見合わせる。能力の修行での宿題と聞いたから家でも特訓をさせられるのかと思ったがまったく違い、びっくりしてしまったからだ。思わず淳は聞いてしまう。
「い、家で能力を使うとかの宿題じゃあないんですか?」
「ああ。だってお前らもうくたくただろ。それに家でやる必要がないくらいここで修行させるつもりだしな。あ、お前ら能力に名前付けるの恥ずかしいとか思ってるんだろ。」
「い、いえ。それは思っていないですけど。」
確かに純も雄二も名前をつけることが別にいやなわけではない。ただ、意味がわからないのだ。なぜ能力に名前をつける必要があるのか。
と、思っていると赤羽は説明してくれた。
「確かに能力に名前をつけるのは恥ずかしいとか思う気持ちもわからなくはない。だけど名前をつけることによって自分の能力に対して愛着がつくんだ。たとえば知らない人と会うときでも、その人の名前を知っているか知らないかではまったく親近感のわきかたなんかが違うものなんだよ。ほかにもいろいろあるぞ。とにかく名前ってのはめちゃくちゃ大切なものなんだ。そして自分でつけた名前ならなおさらなんだ。自分の能力に対して思い入れを持ってたほうが能力も強くなる。能力は精神に左右されるからだな。だから自分の能力に、何でもいい、かっこいいやつでもかわいいやつでも平凡で簡素なやつでも何でもいいからしっかり名前をつけてほしい。」
赤羽は言い終わると、あっ、とあることに気づき付け足す。
「これは別に明日までの宿題ってわけじゃあない。能力の名前って一生使うものだと思うから、真剣に悩んでぜひとも気に入った名前をつけてくれ。」
「「はい。」」
二人は内容を理解し、しっかりと答えるのだった。
「よし、じゃあ今日はここまでだ。明日また放課後にここで特訓だ。明日は現地集合ってことで大丈夫か?」
淳も雄二もしっかりとここの場所を覚えていた。だから赤羽の言葉にうなずく。
そして今日はこれで解散となった。