E−XAMY

   12

 淳は布団に入った後もずっと考え事をしていた。今日赤羽から出された宿題について。つまり自分の水を操るという能力にどんな名前をつけようかと悩んでいたのだった。

 どうせつけるならかっこいいやつがいいが、あんまりかっこよくしようと意識しすぎるとなんだか恥ずかしい名前しか浮かんできそうにないからだ。

この能力とは一生付き合うことになるだろう。赤羽もそういっていたし、自分としても実感として感じていた。だから自分が一生使えるようなかっこいい、それでいて恥ずかしくなく、長すぎず、短すぎない名前をつけようと思っていた。

そこまではよかったのだが、なかなかいい案が思い浮かばなかった。

どれもこれも変か、平凡か、なずけるには恥ずかしい名前ばかりであった。

 

 

 淳はおきるといつの間にか自分が眠っていることいきづいた。どうやら昨日は考えているうちに寝入ってしまったようだ。

「いい名前か。」

 淳はそんなことを口に出しながら着替え、学校の支度をする。

 昨日は結局いい案が思いつかなかった。赤羽はそんなにいそぐ必要もないといっていたが、なるべく早く名前をつけたかった。名前をつけることで能力に愛着がつくという赤羽の言葉に共感を得たから、早く名前をつけて自分の能力に愛着を持ちたかったからである。

「とりあえず、学校でも考えてみるかな。」

 そんなことを考えながら淳は家を出る。

 

 

 学校でもずっと考えていたが何も思い浮かばない。正確に言うといい案が思い浮かばなかった。だからなおさら考え込んでしまっていた。

 そんな淳を心配して見つめている人物がいた。麗佳である。麗佳は昨日から淳が暗い顔をしていることを気に病んでいるとはいっても、あって間もないので淳がこういう人なのかもしれないと思う気持ちもあったが、学校で再開してからの数日間はああいう風に思い悩んでいなかったので、やっぱりどこか具合が悪いのかと思って今っていた。

(でも昨日話しかけたとき大丈夫って言ってたし、何度も同じこと聞いたら嫌がられるよね。)

 麗華は淳に声をかけたがったが、かけることができなかった。

 そんな麗華に雨宮が話しかけてきた。

「なーに、暗い顔してるの。それも浅野君を見つめて。」

  雨宮は少しニヤニヤしていて怖かったが、それでも話しかけやすい雰囲気を持っていたからか麗佳は思っていることを話した。すると雨宮は「あー、確かにね。」といい、うなずくと「じゃあ実際に聞いてみましょう。」と麗佳の手を引っ張って淳の前に立つのだった。

「ねえ、浅野君。聞きたいことがあるんだけどいい?」

「え?あ、うん。大丈夫だよ。」

 淳はいきなり話しかけられたため、少し驚いてしまう。

「最近浅野君の様子がおかしく思うのよね。彼女もおんなじこと思っているみたいだし。だから何悩んでるか教えてくれない?ひょっとしたら私たちにも手伝えることかもしれないし。」

 その言葉を聴いて淳はえっ、と驚き、そして考える。彼女たちに能力のことを話していいかを。彼女たちは自分を心配してくれている。そのことはうれしい。だがやはり能力について話せない。話したら彼女たちまで巻き込んでしまうような気がしたからだ。

「べ、別にそんなことはないよ。あ、ああ、ただ最近おなかの調子が悪くてね。それでそういう風に見えたのかも。」

「本当?」

「う、うん。本当だよ。」

 雨宮の目が怖い。つい本当のことを話してしまいそうだった。

「うそじゃあないのね?」

「う、うん。」

「おーい、淳。お前もトランプやろうぜ。」

 話しこんでいる淳たちに雄二が無理やり割って入って淳を連れて行ってしまう。

「ちっ。にげられた。」

 悔しがる雨宮に麗華はありがとう、と感謝の言葉を口にする。

「ありがとう、雨宮さん。でも浅野君が言いたくないって言うなら無理に聞くのも悪いと思うんです。だから、その、えっと……。」

「わかった。じゃあ無理に聞くのはやめるね。でも聞きたいことがあったらちゃんと聞かないと駄目よ。話さないと何にも伝わらないんだから。」

「うん。そうだね。」

 にこりと笑って返す麗華だった。

 

 

「ありがとう、雄二。」

 雄二に引っ張られてきた淳が雄二に言う。

「へっ。別にいいってことよ。たださ、彼女本気でお前のこと心配してるみたいだったぜ。たぶん彼女なら本当のこといってもお前のことを変な目で見たりしないと思う。だから彼女には本当のこといってやってもいいんじゃないか?」

「ううん。そうじゃないんだ、雄二。別に変な目で見られるのがいやだとかそういうんじゃないんだ。ただ、本当のことを言ったら彼女たちまで巻き込んでしまいそうで……。だから、本当のことをいって彼女たちを危険にさらしたくなかったんだ。」

「そうか。うん、わかった。お前がそういうならあわせてやるよ。でも忘れるなよ。彼女は本当に心配してくれてる。だから彼女はお前を裏切ることはないって。」

「うん。」

 淳は複雑な気持ちで雄二の言葉にうなずく。

 

 

「よし。じゃあ今日も張り切っていくか。」

 特訓のために裏山に来た淳たちに赤羽は元気よく言う。が、淳は少し暗かった。

「なんだ?どうした?何かいやなことでもあったのか?」

「いえ、別にそういうわけではないんです。」

「そうか。まあ、相談したいこと、悩んでることがあったら何でも言えよ。話すだけでも楽になるんだからさ。」

「はい。あ、あの。ひとつ気いてもいいですか?」

「ん?なんだ?」

「赤羽先生は自分の能力のこと誰かに話したことありますか?」

「ああ、結構話してるぞ。お前たちにだって話しただろ。」

「い、いえ。そうではなくて、能力者じゃない人とかに。たとえば彼女さんとか。」

 赤羽はうーんとうなってから答える。

「そういわれても彼女なんていたことないからなぁ。まあ、能力者じゃないやつにも俺の能力を話したやつはいるぞ。ただそいつは兄が能力者で、能力のこと知ってるけどな。能力のこと知らないやつで俺が能力のことを話したのは確かなかったような気がする。あっ、そういえば一人いたな。」

「そ、それはどうしておしえたんですか?」

「ああ。そいつ襲われてたんだ。それを助けるために能力使ってさ。そんで能力のこと教えたんよ。あとは、うん。そのくらいだったと思う。たぶん。きっと。おそらく。」

 赤羽は自信なさげな答えを口にする。それに対し、淳は質問を重ねる。

「たとえば自分を心配してくれてる人に能力を教えたりはしなかったんですか?」

 赤羽はこの質問をきき、ピンとくる。淳がどうしてこんな質問をするのかを。

「浅野。その質問に答えるのはいいが、それはあくまで俺の答えだ。だからな、お前はお前なりの答えを持たなきゃ駄目だぞ。」

「えっ?それはどういう意味でしょうか?」

「だからさ。実際にそういう場面に直面したらうんと悩んで、そして俺の答えに流されず、お前はお前なりの答えを見つけて、それを実行すればいい。お前が話したほうがいいと思ったなら話せばいいし、話さなければいいと思ったのならば話さない。大事なのは自分の答えを持つことだ。」

「はい。」

 赤羽の言葉に淳はうなずく。

「ちなみに俺は話さなかったけどな。話して嫌われるのがいやだったとかそんなんじゃない。話してもきっと嫌ったりしなかっただろうしな。」

 

 

「さ、じゃあ今日もまた特訓といこうか。」

「あ、先生。おれ能力に名前付けてきましたよ。」

 雄二が自信満々に言う。そんな雄二を見て、もう名前をつけたのか、と感心する淳だった。

「ほう、どんな名前をつけたんだ?」

「炎帝(フレイムエンペラー)。どうっす。かっこいいっしょ。」

「うん。まあいいんじゃないか。実際気に入ってるなら問題ない。」

「そうっしょ。かっこいいっしょ。」

 赤羽の言葉を半分無視して淳は自慢げになる。

「まあいいか。さ、じゃあはじめるぞ。」

 そしていつもどおり、特訓を始めるのだった。