
13
漣は一週間待った。しかし、チャンスは訪れなかった。彼が見ているときはいつも二人は守られていた。忌々しい。二人があいつと別れた後でもあいつは警戒を怠らなかった。彼らが襲われたらすぐに駆けつけるように。
この一週間進展がなかった。いや、むこうさんにはいい進展があった。こちらに対抗するために特訓しだしていた。だからこちらとしては自体は悪いほうに進展していると考えるべきだった。
最悪だ。そう考えていた。
ふと一週間前のことを思い出す。自分がこの命を受けたときの記憶だ。
漣は非常に驚いていた。豪華だとすぐにわかりそうな家のある一室でのことだった。
「そう驚くことでもない。あの二人をやったのはあくまで赤い死神のほうだ。」
この言葉で漣は納得いった。あの二人は確かに個々ではそれほどでもない。しかし彼ら二人のペアとしての相性は悪くはなく、何よりお互いに信頼関係を気づいていた。ペアを組むものにとってパートナーが信頼できるか、協力し合えるかはとても大事な要素のひとつだ。能力者としてもいやいや組み合わされたペアより、気の知れた仲間のほうが力が出ることは心の持ち方からして当然だった。だからあの二人は組めばかなりの力を持つはずだった。四本槍である自分には及ばないまでも、ブレイザ・ブリクでは四本槍の次に強いといったレベルであった。
その二人を能力覚えたての子供二人が倒したなどという話をどうして信じられるか。江田は二人にやられたらしいが、あいつは油断しすぎだからまあわかる。だが今回は違った。だから、あの二人を倒したのが赤羽だと知ってようやく納得がいったのである。
「というわけだ。あの二人でも手に負えないとすると、私としてはもう四本槍を使うしかなくなる。」
「なるほど。だから俺の出番てわけですね?」
「そうだ。」
貴族風のこの館に似合った雰囲気の男は言う。といっても洋館に和服だからちぐはぐだが。
「ただし、だ。」
「ただし?」
この言葉に漣は疑問詞を浮かべる。ただしなんだというのだ。
「赤羽がいないときを狙え。こちらとしても不意打ちのようになるからこんなことはやりたくはなかったが、致し方ない。」
「!そんなことやる必要ないでしょう。俺なら赤い死神だって……。」
「いや、おそらく無理だろう。赤い死神は最強クラスの能力者の一人だ。」
「あなたと同じで?」
貴族風の男はゆっくりとうなずく。
「むこうがそれほどの実力者という以上、いくらお前といえども倒せないだろう。いや、私以外では無理だと断言すらできる。だが私はこの件に出向くわけには行かない。」
「こっちにとっては取るに足らない、はずだったことだから?」
「そうだ。たかだかうるさい人間が二人いて、それを排除するのにリーダーである私が行けばわが組織がなめられる。今はそんなことがないにしても、いずれ敵対する組織になめられる。そんなことはあってはならないのだ。」
「わかったよ。」
「われわれにとってこれは取るに足らない雑事だ。なるべく早く戻って来い。」
「了解。」
そんなことがあってからもう一週間もたってしまった。あの二人をなるべく尾行して、赤い死神がおらず、そして存分に能力を使えるような場所(そんな場所なら周りに邪魔されることもない)に彼らが行くことを待っていたがもう限界だ。いや、限界などとうに過ぎていた。それでも我慢して我慢した。だからこれ以上は無理だった。
故に、今日、彼らが、赤い死神と一緒にいようと、襲える機会があったなら、赤い死神にだまし討ちをして、そして、赤い死神がいない状態と同じ状態を作り出す。あの赤い死神相手にそんなことをするのは難しいと思ったが、自分の能力ならやれるという確信があった。
そしてやらなければならない状態でもあった。
タイミングは特訓が終わった瞬間だ。
あそこはだだっ広いが、いくら赤羽でも背後からの一撃は気づかないはず。だからあの二人にばれないようにすればいいわけだが、彼らにしても特訓が終わったばかりだから疲労しているはず。
特訓が終わって彼らがあの場所から立ち去ろうとするときに、道にある木に隠れて襲うのもいいが、それではあの二人の体力が回復している恐れがある。万が一赤い死神と戦闘になったときのことを考えると、それは避けたい。さすがにあの赤い死神相手に1対3はやりたくなかった。
だからかれらがいつも特訓の休憩に使っている腰くらいの岩が置いてある場所の近くの木に隠れることのした。
チャンスは一瞬。赤い死神も、あの二人も気を緩めた瞬間にすべてを終わらせる。終わらせてやる。そう考えていた。
今日も淳たちは能力の特訓だった。それはいいが、まさか学校のない日曜までやるとは思っておらず、赤羽から電話がかかってきたときは淳は本当に驚いた。いや、確かに携帯番号は教えていたけど、と考える淳だった。
まあ、今日は平日だからそんなことも言わないし思わないが。
今まで能力の特訓をやってきてやっと能力というものに慣れてきた気がする。ゆっくりやれば赤羽の投げた闇の針みたいなやつに水を当てることができるようになったし、動体視力も少しならついたような気がする。能力の体力もおんなじだ。
ただ、気がかりはある。
果たして間に合うのかということだ。
今まで、といってもたった一週間だが、必死に特訓してきたが、いきなり敵が来て、僕らは十分に育っておらず、赤羽のいないところであっさりやられる。そんな話がないわけでもないように思えた。この間の話だと、僕らを殺すというところまではいかないようだったが、それでも僕の周りのものが傷つくのはいやだった。でもどんなに無理をしたって僕らが強くなるスピードはそこまで早くならない。だからこればっかりは祈るだけだった。
「よし、今日はここまで。」
ようやく今日の特訓が終わり、赤羽がそういった瞬間だった。
その瞬間淳の願いはもろくも崩れさった。
敵からの攻撃があったのだった。
漣は二人の特訓の様子を隠れながら聞いており、そしていつものノルマが終わったと理解したとき一気に臨戦態勢に入った。そして実際に赤羽が終わったといった瞬間、木の陰から飛び出し、自身の能力である見えざる鞭「インビジブル」を赤羽に飛ばした。もちろん鞭は右手に持っており、この場合は鞭を振るったといったほうが正しかったかもしれないが。
奇襲。
淳たちは反応が一瞬送れた。やはり疲れていたからだろう。だから彼らが声を出そうとした瞬間にはもう終わっていた。
突然敵(であろう人物)が何かを振るような動作を赤羽めがけてしていた。見えこそしなかったがそれは赤羽を攻撃しているのだと二人にもわかった。
だが。
赤羽は。
その攻撃を。
剣ではじいた。
いつの間にか手に持っていた剣で。
いつの間にか立ち上がり。
そしていつの間にか剣をふるって。
敵の見えざる攻撃を防いだのだった。
このことに一番驚いているのは攻撃をした漣であった。正確に言うのならば、淳や雄二も十分驚いていたが状況整理にまだ間に合っていなかっただけだが。
「な、なんだと。」
おくらばせながら漣は口に出した。
「なぜ俺の攻撃が。ま、まさかきづいていたのか。」
「というか敵が来るのを知っていて、なおかつ敵が狙いやすいタイミングで警戒を怠るわけがないでしょ。」
「だとしても、とっさに対応できる速度では攻撃していない。まさか俺の尾行を気づいていたのか。」
赤羽は答えない。
「ちっ。いつから気づいてたんだ?」
赤羽は答えない。
「最初からってわけか。」
これにも赤羽は答えない。ただ、これは先のものとは違い、敵が勝手に誤解するならそうさせておこうという考えがあってのことだが。実際は漣が臨戦態勢に入った瞬間、体の緊張で葉っぱを踏んでしまい、その音を赤羽は聞いただけなのだが。
「いやな野郎だぜ。」
そういうと漣はすぐに構えた。そこはやはり実力者といったところだろうか。確実に成功すると思っていた奇襲が失敗して驚愕していてもすぐに立ち直る。
それに対し赤羽は右手の剣を消し、左の腰の近くにある漫画を持ったまま、まるで鞘でも持っているかのように丸めた左手の近くに右手を近づけ、そしてその鞘に収まっている刀を持つかのように右手を添えた。
そして右手をゆっくりと左手から離していく。
まるで刀を鞘から抜いているかのように。
すると本当に右手と左手の間に刀、それも光の刀が出てきている。
そしてようやく抜けきったところで光の刀の長さがわかる。
普通の日本刀と同じか、少し長いくらいだった。
「光剣・新月。」
漣の動きは早かった。
赤羽が刀を抜き終わり、言葉を終わらせようとした瞬間に見えざる鞭を飛ばしていた。
だが赤羽もこれに反応し、見えないまでも音などから敵の攻撃を感じ取り、切る。
敵の攻撃を、切る。
そして実際、鞭はスパッと切れた。
これは見えざる鞭をもつ漣と実際に切った赤羽しかわからないことだったが。
これについて漣は驚いてしまう。
自分の鞭が切られたことなどただの一度もなかった。
先ほども、赤羽は剣で鞭を払っていたが、刃は確実に鞭のほうを向いており、切ろうとしているのがわかった。
が、切れなかった。
だが今回はどうだ。
いとも簡単に切られてしまった。
まるで糸のように。
糸のようにいとも簡単に。
切られてしまった。
「くっ。」
だが漣はあわてこそしたものの、動揺こそしたものの、隙は見せなかった。
初めての体験ではあるが、想定していなかったことではない。
すぐに切られた鞭を消し、新しい鞭を生み出す。
そしてすぐに赤羽に振るった。
同時に赤羽も刀を振っていた。
二人の間は5メートル以上はなれているにもかかわらずだ。
だが光の刀は振ると同時に少しずつ伸びていき、剣先が前四十五度くらいになると一気に伸びた。
「一閃」
そしてその刀は。
見えざる鞭を切り。
漣をも切った。
光の刀は先ほどとは反対の前四十五度、つまり九十度ぐらい進んだところで一気に縮み、赤羽が振り終わるときには元の長さに戻っていた。
淳たちは呆然とこの状況を見ていた。
さすがにもう状況整理はついてはいるが、ついてはいけない。そんな感じだった。
敵も決して弱くはなかった。
いや、淳たちから見れば圧倒的なくらい強いようにすら感じた。
あの奇襲を見ればわかる。
以前襲ってきたあの二人組みでさえ話にならないようなレベルだろう。
それを一蹴してしまうなど。
しかも相手は奇襲まで仕掛けたというのに。
あらためて、いやこれで初めて赤羽慎という男の本当の強さがわかった淳と雄二であった。
「あ、あれ。あの人ほっとくんですか?」
戦闘が終わった後、赤羽が淳たちに帰るぞといってきたので淳は思わず聞く。
「ああ。どうせそいつに聞いたって何も答えないだろうからな。前回だってそうだったろ?今回だけ特別ってことはないと思うよ。むしろこれだけの実力者ってことは組織でもかなり上だとおもうし。そうなるとやはり口は割らないだろうからな。」
やはり実力者なのか。
それをあっさりと倒す赤羽っていったい。
「で、でもあの人がもう一回襲ってくることだって……。」
「そりゃないよ。今回だって不意打ちだったのに返り討ちにあったわけだろ。もうこいつじゃかなわないってむこうさんも理解したはずだ。それにこいつの能力も大体わかったからな。どうとでも対処できる。」
そういうと赤羽は二人に「さ、帰ろう。」といった。
二人はそんな赤羽に黙ってついていくだけだった。