
15
「ああ、発見した。ああ。ああ。わかった。」
男はそういうと携帯の電源を切り、ポケットにしまう。視線の先にある三人にさとられないように尾行を続行する。
そして三人が人気のない公園に差し掛かったそのときを狙って男は3人の前に姿を現す。
「少し時間をいただこう。」
「誰だ、あんた?」
いきなり出てきた男に雄二は問う。男は自分のペースを崩さずに答える。
「ブレイザ・ブリク、渚徹。」
それを聞いた瞬間、淳と雄二は身構える。
ブレイザ・ブリク
それはまさに淳たちを狙っている組織だったからだ。
淳たちのいきなりの反応に二条は疑問を抱き、二人に聞く。
「どうしたの?いきなり身構えて。」
「先生。注意してください。ブレイザ・ブリクというのは僕たちを狙ってる組織なんです。」
「ああ、ブレイザ・ブリクって言うのか。って、ええ!?」
淳の答えに二条は驚く。まさかいきなり目の前に出てくるとは思わなかったのだ。尾行されていることにはきづいていたが、不意打ちもせず、目の前に現れてくるとは思ってもみなかったのである。
だが、そこは経験が深いものである。この状況を納得がいかないまでも一瞬で理解する。そしてだからこそ男に話しかける。
「君たちが彼らを狙っているのか?」
「ああ。」
渚と言う男は元来口数が少ないのか、それ以上はなそうとしない。だから仕方なしに二条は続ける。
「君たちの狙いは何だ。どうして彼らを狙う?」
「お前には関係のないことだ。だからどこかへ消えろ。あえて追わん。」
「そういうわけにはいかないよ。」
「余計な怪我をしたくないなら消えたほうが身のためだ。」
「結構な自信だね。でもそれは命取りだよ。」
「わかった。もう何もいわん。」
渚はそういうと左手を前に突き出す。すると近くにあった砂場から一気に大量の砂が二条に向かって飛んでゆく。
「!!」
淳と雄二は驚く。砂が二条に向かって飛んでいくことも驚いたが(この程度で驚くのはまだまだ能力者として日が浅い証拠である)、さらに驚いたことがおきたのだ。実際操った渚自身もほとんど顔には出さなかったが驚いていた。
飛んでいった砂が、二条に近づいた瞬間、地面にたたきつけられたのである。
「なるほど。重力操作か空気の操作か。いや、今の感覚だと前者だな。」
「正解。」
渚という男、驚きはしたものの冷静に現状把握するところを見るに、彼もかなりの実力者であることが伺える。
「ならば、これでは……。」
そういうとあたりの砂を二条を中心に三つの塊として集めた。そしてそれを一気に二条に向けて飛ばす。
しかしそれも二条に近づいた瞬間に地面にたたきつけられる。
渚は二条の能力を目の前の重力操作だと仮定したが、これがまちがいだと気づいた。そして悟った。この能力は自身の周囲の重力操作であると。
「……。」
渚はそれを理解すると黙って数歩下がる。そして驚くべきことに二条の付近の地面が割れ始める。
「えっ。」
二条は思わず下を向く。
すると割れた地面から、割れた部分が宙に浮き始める。そしてそれらが二条に向かってまた飛んでいく。
しかしそれらも先ほどまでと同様に地面にたたきつけられる。
(この人、能力者としては強力だけどそこまで強くないな。)
と二条が油断した瞬間である。
「先生。上!」
雄二の叫び声に状況を把握する。
二条の上から先ほどと同様の割れた地面が降ってきた。いや、そんな生易しいものではない。二条を押しつぶそうと襲ってきたのである。
油断さえなければこんなことは影を見るなどして簡単に見破れたはずである。だが二条は油断してしまったのだ。油断というものがどれだけ悪いものかということを理解していないほどの能力者ではないはずだったが、つい油断してしまったのである。
二条は能力を解き(このまま能力を使ってても相手の攻撃を助長するだけだからだ)、間一髪のところでこれを避ける。
渚の出した攻撃が地面にたたきつけられる。そしてたたきつけられ、その結果割れた地面からまた二条に向かってかなりの大きさの地面だったものが二条に飛んでいく。
たった今、ぎりぎりでよけたばかりの二条はこれに反応できてもよけることができない。能力を使おうとしたがコンマ一秒まに合わなかった。
敵の攻撃をもろに食らってしまった。
「ぐっ。」
「君は確かに強いのだろう。しかし経験がちがう。」
言い終わると周囲の大地を割り、空に浮かべる。そしてそれを先ほどと同様に二条の頭上へ飛ばし、一気に急降下させる。
ダメージを受けているが仕方がない。これを二条は圧倒的速度でよける。赤羽ほどではないが、それでも結構な速度だった。
「なるほど。重力操作をうまく使っての高速移動か。しかし……。」
渚は二条に向かって何度も割れた大地を落とす。さらに、大地を割って二条の頭上に持っていくという行動を繰り返しながら。攻撃があたるまで続けるつもりだった。
確かに莫大な精神エネルギーを使うが、自分が力尽きるより前にしとめられるという自信からそうするつもりであった。
しかし二条は第3波をよけ終わると一気に渚に近いていった。そして右腕を大きく振りかぶり渚に向かってそのこぶしを振る。
「ふっ。」
渚はこれを周囲にあった砂を集めてガードする。
「甘かったな。」
「いや、これで一瞬でもあなたの気がそれた。」
ズン。
この言葉が終わるか終わらないかのうちに淳と雄二は一気に地面にひきつけられた。いや、二人だけではない。渚の操っていた地面も、砂も、大地の破片も、そして渚自身もすべて地面にたたきつけられていた。
渚もこれには驚く。
「こ、これは。」
「悪いね、浅野君と谷本君。二人を巻き込むつもりはなかったけど、慎から敵に会ったら圧倒的実力を見せて勝てって言われててね。相手がここまで強かったから、こっちもかなり本気出さなきゃいけなくなっちゃった。」
渚はこの状況下で割ってあった大地を操ろうとする。が、大地の破片が動いてくれない。いや、正確に言うならば宙に浮かせようとしているがピクリとも動かない。大地にひきつけられ、いや、圧倒的な重力に蝕まれているのだ。なるべく遠くの大地を操ろうとするが駄目であった。
「くそっ。まさか自分以外の周囲の大地をここまで操るとは。」
「何を言ってるんだい。勘違いしているかもしれないから言っておくけど、僕自身もあなたと同じくらい重力によってひきつけられてるよ。」
「!!」
渚が驚くのも無理はないだろう。これは相当なGである。渚自身もそこまで体力に自信がないわけではない、どころか平均以上は確実にある人物だった。その自分が動けないのに、体つきが自分より弱そうに見える彼は動けるというのか。
「自分の能力なんだからこれくらいきたえてて当たり前だよ。さて、もう終わりにしようかな。」
言うと二条は手刀を作り、一気に渚の後頭部に打ち込む。ただ、打ち込むときは相手を殺さないように能力は解除しておいた。
「ふう、こんなとこかな。」
二条を本物だと思わずにはいられない淳たちだった。
「すごいパワーですね。」
帰り際に淳が二条に話しかける。しかし二条は「そんなことないよ。」と首を振るのだった。
「いや、実際やばいっすよ、あれは。やっぱり赤羽先生もあれくらいのパワーをだせるんすか?」
「んー、どうだろ。知ってのとおり、彼の能力は燃費が悪いからね。僕と同じ重力操作を使ったら彼のほうが弱いと思うけど、精神エネルギーの量は彼のほうが多いかな。とはいっても彼はどっちかって言うと技で戦うタイプだからね。」
「へー、そうなんすか。」
「ん?慎の戦い見たことないのかい?」
「いや、あるにはあるっすけど圧倒的過ぎて……。」
「なるほどね。まあ君たちもがんばって修行に励めば、まあ僕よりは強くなれると思うよ。僕は才能ないほうだったしね。」
「才能なくてあれすか。」
何気に失礼な雄二だったが、これを無視して(というより気づかなくて)二条は続ける。
「逆に慎君は才能がかなりあるからね。僕が知ってる中では一番あるよ。だから僕も相当修行したんだ。」
「だからあれくらいのパワーが出るんすね。」
「うん、そうだね。さ、ついた。じゃあ僕はこの辺で帰るよ。」
二人を見送り終えた二条は二人にてを振り、学校へと戻るのだった。
豪華なつくりの一室で貴族風の男は驚きをあらわにする。
「ばかな。渚がやられただと!今回は赤い死神はいなかったはずだ。第一やつほどの実力者なら赤い死神がいたとしても何とかなるやも知れぬほどだぞ。それが……。」
「はい。何でも二条という彼らの学校の教師にやられたとか。」
「二条?二条だと!まさか、いや。赤い死神がいるんだ。鈍色の番犬がいてもおかしくはなかった。くっ。またしても私の失態か。」
「どうなされます?」
貴族風の男は歯がゆそうな顔から、しかたないと言い、執事風の男に答える。
「もう四本槍が二本も折られたのだ。私みずから出向く。」
「よろしいので?」
「ああ。引導を渡そう。この私が。直々に。」