
18
「なるほど。まさか私の攻撃をよけるとは思わなかった。後ろを振り返ったのはたまたまか。だとしても後ろを振り返っただけでまさかよけるとはな。いや、そもそも偶然とはいえ、後ろを振り返ったのはやはり彼が、彼がこの世界に影響を残すほどの存在であるからかも知れんな。だったらどちらにしても。いや、むしろそんな存在だからこそ。私の敵である以上、散ってもらおうか。」
恐怖。
戦慄。
焦燥。
白藤は淳に対し、圧倒的な敵意をあらわにした。
今までとはレベルが違う。
圧倒的な敵意。
少しの混じりけもなく。
少しの迷いもない。
殺意はなく。
怒気もなく。
あるのは敵意と少しの害意だけ。
淳はそれに恐怖する。
淳はそれに戦慄する。
焦燥する。
今すぐにでも逃げ出したい。
今すぐにでも泣き出したい。
でもほんの少しだけ理性を保っていた。
雄二を。
倒れている雄二を見捨てられないと思って。
完全に油断していた。
もう安全なのだと。
完全に過信していた。
自分の周囲の安全さを。
だから。
だからこんな結果になってしまったのだろう。
もし僕がもう少し周りに注意していれば。
もし僕が油断などしていなかったら。
もし僕が彼女の忠告をもっとしっかり聞いていたら。
もし……。
いや、そんなもしもはない。
あるのはこの現実だけ。
だから。
だから。
だから僕は。
雄二を守る。
怖いけど。
恐ろしいけど。
そんなことは関係ない。
守らなきゃいけないんだ。
それだけは。
譲れない。
「え?」
だが気づいたときには遅かった。
白藤は刀を振り終えており。
風はもう止んでおり。
そして淳はもう切られていた。
一瞬。
確かに一瞬だけ考え事をしてしまった。
その一瞬が致命的だった。
しかしそれは必然。
決意を固めるためにその一瞬は確実に必要だった。
だからその一瞬という時間は絶対に必要だった。
だからこの結果は必然であり当然であり当たり前だった。
仕方のないことだった。
「ゆ、うじ。」
だがそんなことは関係ない。
淳は自分が雄二を守れなかったことを悲しみながら倒れていった。
「きさまぁ―。」
声がした瞬間、いやそのほんの少し前に白藤は後ろを振り返り刀を横に構え、防御する。赤羽の剣を。
「貴様、よくも。」
突如現れた赤羽に対してもさほど驚かず、まるでそれが当たり前のように白藤は振舞う。
「ほう。意外と早かったな。いや、しかしこの場合遅かったなというべきか。」
赤羽はいったん距離をとる。
それと同時に白藤は構えを取る。
「貴様は、ゆるさない。」
「結構。貴公とはいずれ対峙すると思っていた。しかしいいのか。彼らをほうっておいて。」
「っ。」
瞬間、赤羽は淳たちの元に移動する。
優先すべきは今ここで白藤を倒すことではなく、二人を助けることだ。
「この続きはいずれまた。」
白藤はそういうと刀を鞘に戻し、地面に落ちている刀を入れていた細長い黒い袋を拾って赤羽に背を向ける。
しかし油断は見せない。
いつでも刀が抜けるように刀を袋に戻しはしない。
しかし油断はなくとも余裕はある。
それは強者の余裕ではない。
それは非常に気高く。
一寸の混じりけもなく。
気高く。
純粋であった。
王よりも。
魔王よりも。
帝王よりも。
神よりも。
優雅で。
あでやかな。
貴族のように。
去ってゆくのだった。
「俺だ。ああ。そうだ。そこにいる。だから急いできてくれ。」
白藤が去った後、赤羽は電話をかける。國生にだ。
「ち、大将がまさかこんなに早く来るとは。いや、それが問題じゃない。あの時もっときつく言っておけば。そうすればあいつと戦おうなんて気に……。くそっ。いや、もうよそう。そんなありもしないいifの話は。」
そして赤羽は國生の到着を待つのだった。