E−XAMY

   21

「お前、楓政人だな」

 目標を発見し、雄二は確認する。

「なんだ、お前ら。ん? ひょっとしてお前らは……」

 楓は淳と雄二を見比べる。

「ほうほう。そうかそうか。やっぱり来たのね。ふっふっふ。くっくっく。あっはっはっはっは」

 そして男は突然笑い出した。

「来るとは思ってたが意外と早かったな。もう準備はできたのか?」

「な、なんだよこいつのこの余裕」

 楓の態度に雄二は困惑する。

「で、一応聞くが何しに来たんだい?」

「決まってるだろ。手前らをぶったおしにきたんだよ」

「へー、なるほど。でもさ。俺を倒したからって組織はつぶれないよ。どうするの? まさか全員倒すとか」

「ちげえよ。俺たちはお前からお前らのリーダーの情報を聞きだしに来ただけだ。リーダーさえ倒せば組織は崩れるだろ。だからお前が素直に情報を教えてくれるなら手荒いまねはしないぜ」

「はっは、なるほど。でも君の理屈は二つ間違ってるな」

「なに!」

「まず一つ目。リーダーを倒したからって組織は崩れない。誰かがリーダーを継げばいいだけの話なんだからね」

(ま、僕らの場合はリーダーのカリスマ性に集まってるところがあるからこうはいえないんだけど)

 と、楓は心の中で付け足す。

「そしてもうひとつ。君たちごときじゃ、僕から情報を引き出すなんてできやしないね。ましてや、われらが盟主の情報なんて死んでも言うわけがないだろ」

「だったら仕方ねえな」

 そして雄二は構える。

「どうしても駄目なんですか」

 しかし淳は未練がましく続ける。

「構えなよ。人には本当に譲れないものってのがあるもんさ。だったら戦うしかないだろ」

「でも……」

「君はいったいここに何しに来たんだ? 俺と話に来ただけなのか。それとも俺たちの組織をぶっ潰しに来たのか。どっちだ」

「わかり、ました」

 そういうと淳もやっと構える。

「ん? へえ」

 二人の構えを、というより構えている位置を見て楓は感心した。二人とも楓からある程度はなれて構えている。

「その様子じゃあ僕の能力を知っているね?」

「任意空間に斬撃を生み出す能力……」

「ご名答」

 そう、楓の能力は自分の意図した場所に斬撃を生み出す能力である。しかしその能力の限定条件として自分を中心として半径約2メートル以内でなければならないというものがある。

 だから二人は決してその領域に入らないようにするためにある程度距離をとっているのだ。

「だったら」

 楓は走り出す。二人に向かって。

「来るぞ、淳」

「うん」

 二人は当然このことも想定していた。だから冷静に対応する。

 淳は手に持っていたペットボトルのふたを開け、雄二はポケットからライターを取り出す。そして楓に向かって二人はそれぞれ水と火を飛ばす。

「無駄無駄」

 しかし楓の近くまで飛んでいった瞬間、楓はそれらにいくつもの斬撃を生み出すことにより対処する。火は斬撃によって生まれた風に消され、水は瞬く間に水滴になって飛び散る。

「これでわかったろ。君たちじゃあ無理だ。おとなしく引くならばこのことは忘れよう。もちろん君たちが僕らにこれ以上干渉しないって約束はしてもらうけどね」

 楓のこの提案に淳は応じず、きりっと相手をにらむことで返答した。

「そう……。わかったよ。だったら!」

 楓は一気に加速し二人に詰め寄る。

 それに対し、淳は先ほどの斬撃で水滴になった水を楓の後ろでばれないように集め、一気に楓に当てようとする。

「無駄だ」

 しかし楓は後ろに目でもついているのかこれをまた斬撃で切り刻み、水滴にする。

「え?」

 淳は困惑する。だが、隙は生まないように次の手を考えながら、だ。

「無駄無駄言ってんじゃねえ」

 雄二は自身の能力で操っていた火の火力をかなり高め、それを楓に向かって飛ばす。

「こ、これなら」

 先ほど飛ばした火の火力とは段違いで、これはかなりの大きさの火となっていた。

「じゃあ、無理無用無謀とでも言おうか?」

 しかし楓はこれを自身の前に生み出した数多の斬撃で消し去る。二人には見えないので知るよしもないがその数なんと30。しかも一つ一つが1メートルを超えるかなりでかいものだった。

「な! ありえねえだろ、さっきから。これじゃあ……」

「雄二!」

「わかってるよ」

 能力者の戦いは精神に依存するところがかなり大きい。だから少しでも負けるかもとか駄目かもとか思ってしまったら本当にそうなってしまいやすいのだ。故に淳は雄二を叱咤する。絶対にそんなことを思ってはいけないからだ。

 淳たちは楓に対して無策で戦いを挑んだわけではない。いくら淳たちが少しは強くなっているとは言ってもまだまだである。敵のチームのトップクラスの能力者に実力で勝てるとは思っていない。もちろん、ひょっとしたら勝てるかもしれないとかは思っているが、完全には思っていないのだ。

 だから策はいくつか用意してある。いままでつかってなかったのは相手の実力を確認するためだ。

「雄二、いくよ」

 そして完全に実力だけでは楓に勝てないと感じ、淳はいくつも考えていた策を使おうと決断する。

「何番だ?」

「一番」

 突っ込んでくる相手に対し、雄二はもう一度、最大火力で火を飛ばす。

「ふ」

 当然これも敵は消してしまう。そして淳たちにあと2メートル半まで迫ろうとしたとき

 ダン!

 楓の真後ろで大きな音がなる。

 楓は思わず後ろを振り返ってしまう。もちろん前に対する警戒は緩めずに、だ。

 するとそこにはマンホールから大量の水が飛び出していた。

 先ほどの音はその水によってマンホールが吹っ飛び、壁にあたったときの音だったのだ。

 このとき楓は左から顔を後ろに向けた。つまり右側に死角ができたということである。

 雄二は先ほど炎を飛ばす際にもうひとつの炎を後ろに飛ばしていた。この炎は前にある最大火力の炎によって敵からは見えなくなっていた。

 楓は前にある炎を消す。しかしその瞬間に大量の水がマンホールから飛び出し、楓は思わず後ろを向いてしまう。そのため、楓は後ろにあった炎についてまったく気がつかなかった。

 雄二はこの炎を楓の死角である右側に飛ばし、能力で一気に火力を上げる。そして楓に向かって飛ばした。

 楓はあたるぎりぎりでこれに気がつく。しかし時すでに遅し、である。楓はぎりぎりでこれをよけようとするも、よけきれずあたってしまう。

「くそっ」

 楓の右腕は燃え出す。

 しかし彼の恐ろしいところはここであった。

 なんと自分の体ぎりぎりにかなりの威力の斬撃を生み出し、火を消したのだ。自分の体ぎりぎりに威力の高い能力を使うなんてことは簡単にはできない。しかしかれはここでそれをやってのけたのである。これは間違いなく、彼が能力者として実力がある証拠だろう。

「まさかこの僕に一撃を、しかもこの威力で当てるなんて。白藤さんがあいつらは運命に選ばれてるとか何とか言ってたけど、あながちうそでもないか。だがしかし。われらはわれらが盟主の野望をかなえる。たとえ運命が邪魔をしようとも。絶対に」

 楓はやけどしてしまった右腕をかばいながら再度二人に近づこうとする。

「まさかこれでも駄目だったなんて」

 淳は驚きを隠せない。策はいくつも考えてきた。だからこの策で駄目ならほかの策を使えばいいだけである。しかし楓に対してこの策は有効だったのだ。しっかりとダメージを与えられていたのだ。

 なのに、である。

 なのに彼はそのダメージにすばやく対応し、まだ自分たちに立ち向かってくるのだ。

(楓さんは強い。実力も。そして、心も)

 淳は認める。楓の強さを。だからこそ決意する。考えていた策の中で最上のものを使うと。

「楓さん。ひとつだけ言わせてください」

「なんだ? まだ僕と戦いたくないとか言うのか?」

「まあそうなります。この策を使ったらひょっとしたら貴方は死んでしまうかもしれません。だから、負けを認めてくださいませんか?」

「戯言、だな」

「わかり、ました」

 淳は言い終わると雄二に「ゼロ番だ」と言う。

 楓は走り出そうとする。しかしその瞬間に彼の周りを一気に火が足り囲んだ。

「フレイム・ワールド」

「なるほど」

 楓は理解する。この火の壁により楓の目と動きを封じるとともに、さらに火による酸素の消費、二酸化炭素の排出で中にいる楓にダメージを与えるつもりなのである。

 人間は酸素がなければ生きていけず、さらに二酸化炭素の濃度が高くても生きてはいけないのだ。

 このフレイム・ワールドと言う技はその両方を狙っているのである。

 確かにこれなら本当に死んでしまう可能性はある。

「だが、あまい」

 楓はこの技の欠点を見破る。

 すなわち、火を壁にして敵を囲むことにより生じる、火の壁の濃度、強度の弱さだ。

 敵を囲むからには火はかなり大きく、表面積は広く取らなければならない。しかもそれなりに器用に能力を使わなければならないのだ。だったら火の壁は弱くなってしまう。

 そう、つまり楓はこの弱くなった火の壁さえ突破すればこの技から抜け出せるのである。

 そして欠点に気づいた楓は自身の能力を前に集中させ、常に自身の前に斬撃をうみだしつつ走る。そして目の前の火の壁を消し去り、突破する。二人をついに視認する。

 その瞬間である。

 楓の真後ろの炎の壁から氷の塊が楓に向かって飛んでくる。

 楓は完全に前に集中しており、これに気がついたのは淳が片腕を伸ばし、その腕の二の腕を残った腕で持ちつつ、楓を、と言うよりその後ろを凝視していたためである。

 楓はこれに気づいた瞬間、すぐに後ろに斬撃をいくつも生み出す。

 しかし彼は後ろを振り向かずにこれをやってしまった。

 だから彼のほうに飛んでくるのが氷だとは気がつかなかった。

 故に水を切る感覚で斬撃を生み出してしまったのである。水と氷とでは強度はまったく違う。当然、氷は切れるわけもなく、楓に直撃した。

 そして楓は吹き飛び、そこで気を失った。