
23
豪華な一室の中で楓は昨日あったことを報告し終える。
「そうか。わかった。下がれ」
「は」
そして楓は豪華そうな扉を開き、その部屋から出てゆく。
その様子を見てから白藤はポツリとつぶやく。
「まさか本当に彼らがまたわれらに牙を向けるとはな……」
部屋から出てきた楓は横から声をかけられる。振り返った先には四本槍の苅部がいた。
「おい、お前があの二人の能力者に負けたと言うのは本当か?」
「ああ、本当さ」
「なぜだ! なぜお前ほどの能力者が……。汚いわなにでもはめられてのか」
「いや、そうじゃない。僕は正々堂々……、と言ってもむこうは二人がかりだから正々堂々とはいえないかもしれないが、ともかく僕は正々堂々と2対1で戦って負けたんだ。そこには卑怯なことはなんらなかった」
「ありえないだろ! お前ほどの実力者が、能力を覚えてまだ間もない能力者に、実力で負けるわけがない!」
「だが事実だ」
「ふざけるな。そんなわけがないんだろう。それともやつらの才能がものすごいもので、たったこれだけの期間で強くなってきたとでも言うのか?」
「いや、彼らの才能は決してないわけではないだろうが、それでもものすごくあるとはいえないと思った。だが彼らの心の力はすごいものだった。あえて敗因を上げるとすればそれだな」
「ちがうな。心の力も能力者として才能の一部だ。だがもういい。お前には何を聞いても答えないだろうからな」
そういうと苅部はそこを立ち去ろうとする。
「何だ、どうする気だ?」
「決まっている。これからの方針を立てるんだ。お前がやられた以上、やつらは確実にわれらの脅威となりえる。だから策を考えておかなければ……」
「やめておけ。俺はかまわないがわれらが盟主はそれを好まないよ」
「何だと?」
「彼ら二人はわれらが盟主に一度敗れた存在だ。一度倒した相手にまた時間をかけることなんてことは許されないだろう。しかもはなしが大詰めで、これでクライマックスとかようやくわれらが思いを成就できるときならいいが、まだ話は始まったばかり、いや始まってすらいないじゃないか。われらが盟主のプライドは決してそれを許さないだろうね」
「だが、しかし、それでも……」
「どうしてもって言うならわれらが盟主に直接聞いてからにしたほうがいいぞ。じゃあな。俺は今日は帰る。またな」
「一応聞いておくがお前はこの件ではもう策に入れられないんだな?」
「ああ。僕はもう一度でも彼らに負けてしまったからね。申し訳ないが、この件で彼らには手を出さない。それが敗者の勤めだと思うからね。それに漣はともかく、渚さんもおなじだとおもうよ」
「わかった」
そういうと苅部は白藤のいる部屋をノックし、入っていくのだった。
「なぜです、白藤さん」
白藤に直談判した苅部だったが、楓の予想通り白藤に却下される。
「われらは一度彼らに勝ったのだ。故に敗者たる彼らが今さら来ようとも、われらにはなんら影響はない」
「しかし、現に四本槍の一人、楓が負けているのですよ。なのに……」
「確かにな。だがわれらは勝者なのだ。ならばこそ勝者たるわれらは毅然としていなければならない。敗者にあわてふためく訳には行かないのだ。それこそが勝者のプライドと言うもの」
「ですが……。わかりました。ではせめて、私に彼らが来たとき用の組の対策を立たせてはいただけないでしょうか」
「駄目だな。それでは先ほどお前が言った『今後の対策を考えていくべきだ』と言うものとなんら代わりがない」
「な、で、でも」
「われらは勝者だ。勝者ゆえのプライドというものを忘れるな」
白藤はとことんプライドというものにこだわる。それゆえに彼は気高き純白と呼ばれ、ここまで強くなってきたのだ。彼に惹かれ、あこがれてブレイザ・ブリクに入ってきたものも、この彼のプライドにこだわることから来る気高さに惹かれたからだ。彼のカリスマ性はそこにある。
そんな白藤に苅部は折れる。もともと彼もブレイザ・ブリクの思想だけではなく、白藤のそんな気高さ惹かれて入ったのだからそれも十膳と言えるかもしれない。
「わかりました。ですがせめて私に二つのことを許可してください。ひとつは私の頭の中だけでも、彼らに対する対策を考えさせていただくということ。もうひとつはわれらが盟主がいつ襲われてもいいよう、私をここに住まわせてください」
それを聞いた白藤は苅部に逆に問い返す。
「なぜお前はそこまでやつらにこだわる? 確かに彼らはいまや楓を倒すところまで成長した。とはいっても楓はうまくごまかしているつもりだろうが、彼らが実力だけで勝ったとは思えん。策を練り、うまくやったのだろう。だがだからこそ彼らの実力はそこまでではないと言える。われらブレイザ・ブリクの四本槍以上の実力者、それもまだ彼らには負けていないものに私とお前がいる。彼らごとき、私は2対1でやっても確実に負けん。そしてお前が戦ったとしても1対1ならば確実に勝てるだろう。たとえ彼らが赤い死神と来たとしても、足手まといにしかならない。私としてはなぜお前がそこまで彼らに固執するのかがわかりかねる」
「確かに今はそうかもしれません。ですが彼らの成長には目を見張るところがあります。いずれ、われらの脅威になると思うのです。だから私は彼らを危惧するのです」
「わかった。しかしわれらが勝者のプライドを捨ててはいけないこともまた確か。故にお前の二つの願いは受け入れよう。しかし代わりに、お前が先刻言った彼らに対して対策を練るというのはあきらめてもらうがいいか?」
「わかりました」
そういうと苅部は深くお辞儀をし、その部屋から出て行くのだった。