E−XAMY

   24

 淳たちが白藤に負け、そして彼らが赤羽に特訓の継続を願い出てから一月近くたとうとしていた。

「ああ、もうこんな季節か。初めての授業とかあいつらの修行とかに付き合ってたら時間たつのが早かったな。夏も近いな。あああ、夏はいやだな。虫が出てくるし熱いし、虫が出てくるし熱いし」

 そこで赤羽は思い出す。情報屋にブレイザ・ブリクの情報を頼んでおいて結構たっていることを。

「おかしいな。これだけたって何の情報もないなんて。いや、情報がまったく手に入らないっていう情報すら来ないなんて」

 まさか。

赤羽はそこでひとつの結論に至った。それはすなわち情報屋がもうこの世にいないという可能性である。

「いや、ありえないはなしじゃあないか。敵は淳たちを殺さなかったり周りを巻き込まなかったり紳士っぽいところがあったとはいえ、力で平和をもたらそうって感じのやつらだったからな。殺しも辞さない可能性はある、か。くそ、気づくのが遅かった」

 その考えに至り、赤羽はすぐに情報屋に電話をかけてみることにする。もう死んでいるだろうとは思っていたが、一応のために、だ。だが意外なことに電話はつながった。そしてこの電話でさらに意外な事実に気がつくのだった。

『はい、もしもし。どうしました赤羽さん』

「な。あ、あれ? なんで電話が通じるんだ?」

『何言ってるんですか。情報屋は常に連絡が取れることが大事な要素のひとつっていう僕の口癖、貴方だって知っているじゃないですか』

「い、いや。そうだが……」

『どうしたんですか。声色が悪いですよ』

「一つ聞いていいか?」

『んー、まあいいですよ。ただ、聞く内容によっては情報料が必要ですよ〜』

「まじめな話だ」

『わかりました。茶化すのはなしにします』

「なぜ、電話が通じるんだ?」

『は? 何を言っているんですか? それこそ説明してください』

「ブレイザ・ブリクの情報を頼んでから結構たつだろ。なのにお前から一切連絡がないからひょっとしたらもうこの世にはいないやもしれぬ、と思ったんだ。だから電話がつながることが不思議だったんだ」

『ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいよ。連絡は直接は取ってませんけど、ちゃんと情報は渡したじゃあないですか』

「いや、もらってない」

『じゃあ、まさか』

 情報屋はそこで少し考え込む。そして考えがまとまり、会話を再開させる。

『申し訳ありません。こちらのミスです』

「何があった?」

『僕は情報を貴方の弟子に渡したんです。貴方に届けてくれって。それも、先々週と、おとといの二回』

「な、なんだと」

『おそらく貴方の弟子が忘れているかそんなところだとは思いますが……。すみませんでした。こちらのミスです。貴方に直接渡せばいいものを僕が……』

「ちっ、そういうことかよ。だから、か。そういえば先々週の土曜あたりもあいつらいつも以上に張り切ってたか。それに昨日も」

『どういうことです?』

「あいつら、二人だけで戦うつもりなんだよ」

『な、本当ですか。……。本当に申しわけありませんでした』

「しかたない。こっちにも非はあるしな。それでどれくらいの情報をあいつらに渡したんだ?」

『敵の構成。敵全員の能力。そして敵のリーダー、白藤の所在地、です』

「わかった。じゃあもう電話でいいから気高き純白の所在地を教えてくれ。いまからそこに乗り込む」

『今回はこちらのミスです。そこまで送っていきます』

「いいのか?」

『情報屋は信頼が命です。ミスを犯したら全力でカバーしなければなりません』

「わかった。お願いする」

『これからだと僕が貴方を拾ってから敵地に向かうのが最短です。20分ほどで貴方の家まで伺いますからそれまでに用意を固めておいてください。それと二条さんにも連絡を取っておきますか?』

「いや、今日はあいつは出かけているから無駄だろう。ともかく、なるべく急いでくれ」

『了解しました』

 赤羽は電話を終えると着替え、すぐに戦いの準備を始めるのだった。

 

 

「ここが敵の本拠地か」

「本拠地じゃなくてリーダーのいるところ、だけどね」

「かわんねえだろ」

 非常に大きい洋風の家の、これまた非常に広い庭の中で淳たちはたたずんでいた。

「ったく、これだけの金があんのにまだ世界に不満があるのかねえ」

「でも雄二。僕は彼らの言っていることはわかるよ。やり方が間違っているだけで」

「確かに平和は必要さ。でもお前の言うとおり、やり方が間違ってる。いや、間違いまくってる。だから俺たちが止めなきゃいけねえんだ。そこんとこ忘れるなよ。まちがっても敵に共感して敵の仲間になりましたって落ちは駄目だからな」

「うん。わかってる」

 このとき雄二は淳の目を見て今の言葉が余計なお世話だったことを悟る。淳の目は決意に満ちており、決して敵に惑わされるような弱い覚悟ではなさそうだったのだ。

「じゃあいくぜ、淳」

「うん」

「へえ、門番からは何も連絡なかったけど、君たちどうやって入ってきたんだい」

 いざ行こうと意気込んでいた淳たちの目の前にいつの間にか男が立っていた。もともと細いだろう目は、淳たちをにらむことでさらに細くなっていることが伺える。そしてこの男が放つ殺気は尋常じゃなかった。

「貴方は、苅部さん」

「へえ、よく知ってるねえ。楓が教えたのかい?」

「さあ、どうだかな」

 雄二は答え、そしてポケットからライターを取り出す。

「淳、わかってるな」

「うん」

「よし。じゃあ、いくぜ」

 そういうと雄二は淳の前に炎を飛ばす。と、同時に淳は走り出す。苅部に向かって。そして淳を守るかのように淳の前方をガードしながら、雄二の放った炎は淳の前を飛んでゆく。

「ふーん。なるほど。相方を守りつつ、相方を僕のほうまで近づけさせるか。でもさ」

 苅部は横に思いっきりステップを踏み、軽くこれをよける。そして淳はそのまま走り抜ける。

 だが、苅部からどんどん離れていくのに淳はとまらない。減速すらしない。さらにいうなら、苅部の横を淳が通り抜けた後、炎は消えていった。

「ああ、なんだ。狙いはそっちか」

 そう、このとき苅部は気づいた。淳は苅部を狙っていたのではなく、家のほうへ走っていたのだ。おそらく炎は淳を守るだけでなく、彼らの目的を隠すブラインドの意味もあったのだろう。

「やけに余裕だな」

「おっと、そうかい。まあ、あせってはいないけどね」

 苅部は淳が家に入るのを見終わってから雄二のほうに振り向く。

「これで君たちの計算どおりってわけだ」

「そうだな」

 雄二は苅部をにらみつつ、考えていた。なぜこの男はこんなにも余裕を持っていられるのかと。

「さ、お友達もいったことだし、君の懸念はなくなったろ。そろそろ始めようじゃないか。君たちがいくらがんばろうと、僕らには勝てないということを教えてあげるよ」

 楓はそういうとゆっくり雄二のほうに近づいていくのだった。

 

 

 家に侵入し終えた淳は不思議に思っていた。淳たちの作戦では、淳が家に入ろうとするのを阻止しようとする敵を、雄二が全力で止めるというものだった。だが静か過ぎた。まるで何も起こっていないかのようだった。いや、実際起こっていなかったのだろう。

「本当に、くるとはな」

 コツン、コツン。

 踊り場にある大きな階段から降りてくる影があった。声の主はおそらく彼だろう。そしてその正体は

「白藤、聡介さん、ですね」

「ああ、そうだ。浅野淳よ」

 淳は背負っていたリュックサックからペットボトルを出そうとする。今日は2リットルペットボトルを2本持ってきていた。しかし出そうと思ったところで白藤にとめられた。

「やめろ。ここでやりあうつもりはない。場所をかえよう」

「貴方の有利なところに、ですか?」

「いや、違う。ここでは戦うにはあまりに物を壊しすぎる。だから何もない場所に行こうという提案だ」

 淳は少しの間考えたがこの提案に乗ることにした。淳たちはあくまで彼らを倒しに来ただけであって、彼らをつぶしに来たとか、彼らを破滅に追い込もうとかそんなことは一切思っていなかったからだ。ここにあるのは相当な値打ちのもののようだったし、淳自身、ここで実際に戦うのはためらうかもしれないと思っていた。

「わかりました。ただ、何か怪しいことをしたらそのときは」

「ふ。そんなことはする必要がない。君もわかっているのだろう」

 そして淳は白藤についていき、地下に降りるのだった。