E−XAMY

   26

「なに!?」

 苅部が弾丸を放った瞬間ありえないことが起きた。弾丸が雄二に当たる直前に止まってしまったのだ。いや、正確には弾丸はとめられたのだ。雄二の放った火によって。

「な……。ありえない。弾丸を。僕がかなりの威力をこめた弾丸を、それも火で、とめるなんて」

「へ、残念だったな。付加能力を手に入れたのは淳だけじゃないんだよ」

 そう、雄二も付加能力を得ていたのである。その効果は炎の物質化。正確には硬質化だ。炎というものはエネルギーであり、それに硬さや質量は存在しない。しかし雄二のこの能力により、質量がないものの、硬さを手に入れることができるのだ。雄二はこの能力により、先ほど飛ばした火を自分と苅部の間に移動させ、そして物質化した火によって弾丸を止めたのだ。もちろん相手は弾丸であるし、苅部が相当精神エネルギーをこめたものであるので炎を相当硬くした。

そして弾丸が持っていた運動エネルギーと苅部がこめた精神エネルギーが切れた瞬間、ぽとりと炎の壁の下に落ちた。

「ありえない。僕の能力が、防がれた? いや、そんなはずはない。そ、そうだ。そんなことがあるわけ……」

 苅部は落ちた弾丸を見てからあわてて銃に弾丸をこめなおした。今度は六発。当然一つ一つに精神エネルギーをこめて。

 苅部が雄二の左胸につけたマーカーは、まだ雄二に何も当たっていなかったので消えていない。ゆえにこれだけたくさん打てば雄二も防ぎきれないと判断したのだ。そして引き金を六回引く。

 しかしこの考えは甘かった。すべての弾丸が雄二の炎によって止められてしまったからだ。

「な、うそだ。そんなわけ……」

「とどめだ!」

 苅部がショックを受けている隙を突いて雄二は物質化した炎を苅部めがけて相当の威力で放った。

「ぐあっ!」

 たとえ一瞬でもショックを受けていた苅部はこれに対処できるはずものなく、その場に崩れさった。

「あんたは強かった。最初の弾丸は正直防ぎきれないかと思ったぜ。フルパワーで物質化したってのにかなりひび割れちまったからな。もう一回同じくらい強いのがきたら危なかったぜ」

 しかし苅部はテンパッてしまった。六発すべての弾丸に精神エネルギーをこめることができなかった。さらに能力とは精神の状態によりかなり左右されるものである。そんな精神状態ではいつもより威力が落ちてしまう。ゆえに雄二は六つの弾丸を防ぎきることができたのだ。

「だけどよ。あんたは心が弱かった」

 そういい残して雄二は淳のところに向かおうとする。

が、その瞬間にばたりと倒れてしまう。気を失ってしまったのだ。能力を実践という場で相当使い、完全に精神エネルギーが切れてしまったゆえに、だ。

 雄二は四本槍に勝つことができた。しかしそれは実際はぎりぎりの勝利だったのだ。

 これで雄二のリタイアが決定された。

淳と白藤、彼らの戦いを邪魔するものは誰もいない。

 

 

「ほう」

 先ほどから白藤がいくつも刀を振り作り出している風の斬激を淳に向かって飛ばしていたが、淳はこれを周りの水を使って作り出した氷によって防いでいた。

「なるほど。水の状態変化とその操作か」

「あなたがヒントをくれたんです」

 そう、以前の戦いのときに白藤が言っていた言葉から淳は水の状態変化という発想が生まれた。能力は精神によって左右される。本人が欲し、その本人の資質と合っていたものならば、どんな能力でも生まれる可能性はある。特に淳の場合、能力ではなくあくまで付加能力。サポート的で、言い方を変えれば能力ほどすごい力を持っていないものだ。そして付加能力とは能力と非常に関係が深いものである。水を操る淳にとって、水の状態変化とは操作よりもぐっとレベルの低いものであるはずなのだ。ゆえに彼はこの能力を会得することができた。ちなみに白藤は勘違いをしているが、淳が操れるのは水だけで氷や水蒸気は操れない。これを淳はあえて指摘せず、勘違いしているならとそのままにしておいた。

「これならばもう少し本気を出してもよさそうだな」

 白藤はそういうと先ほどよりも強く刀を振る。振る。振る。計3つの斬激が生まれ、そしてそれらは風となり淳に襲い掛かる。

 しかし淳もこれに対し新たな氷の壁を作り出し、防ぎきる。そして淳は白藤の左右から白藤に向かって水を飛ばす。

 これを白藤はその飛んできた自ら生まれた風を操り、強化し、その水自身に真っ向から当てて防いだ。淳はただ自身の攻撃が止められただけだと思っていたが、これはかなり高度な技術と力を持った技だった。

 いける。

 今までの戦いで淳は白藤に対等に戦えると確信し、そう思う。しかし実際には白藤はまだまったく本気を出していなかった。

 ひゅん

 また白藤は刀の斬撃を飛ばしてくる。これを淳はまた氷の壁を生み出し防ぐ。

「ひとつ聞こう。なぜ私の攻撃を防ぐことができる? わが攻撃は不可視の一撃。砂の舞うところなど風が見えるところならともかく、ここはほこりひとつ舞っていない」

「僕にもよくわからないです。最初は肌で風を感じているだけでした。でも今は、理由はわかりませんがあなたの攻撃が感知できる」

「まったくもって厄介だな。だが、終わりだ」

 いい終えると白藤は再び斬撃を飛ばしてくる。淳もこれまでと同様に氷の壁で防ごうとする、が今回は威力が段違いだった。淳の作り出した氷の壁をスパンと切り裂く。そして淳自身をも切り裂くのだった。

「ぐっ」

 だが淳は倒れなかった。傷としては深くはないが、けっして軽い痛みではない。何針も縫わなければならないほどの傷だ。それでも淳は決して倒れなかったのだ。

 白藤はそれにもあわてず、再び斬撃を飛ばしてくるのだった。

 ひゅん、ひゅん。

 今度は二撃飛んできた。淳は先ほどよりもかなり強度の高い氷を生み出し、これを防ぐ。が、結果的に防ぎきれず、斬撃は氷を真っ二つにし、そして淳をも切り刻む。

 だが、淳は倒れなかった。

 

 

 五分くらい経ったであろうか。淳は白藤から幾つもの斬撃を受けて傷だらけであった。しかしまだ立っていた。傷だらけになりながらもしっかりと地面に足をつけて立っていたのだ。

「なぜだ? なぜまだ倒れない。もうとっくに限界はきているのだろう?」

「僕には。僕には守りたいものがあります。守りたい人たちがいます。もしここで僕が負けてしまったらその人たちを守れません。その人たちが傷つきます。僕はそんなの絶対にいやなんです。守りたいんです。友達を。家族を。みんなを。だから。だから僕は、絶対に負けられません」

「そう、か」

 結局は同じなのだな。

 白藤は感じ取った。結局彼の思いも自分の思いと同じところからきていると。他人への思い。それが自身の思いになっていると。

 自分もそうだったではないか。いや、今でもそうだ。今でもそうだからこそ、平和を目指している。

 彼も、同じなのだ。

 だから彼はこんなにも力が出せるのだ。

 白藤は理解した。淳の心の強さを。心の力の源を。

 だがそれでも自分は負けられないのだ。約束したのだ。親友と。平和を実現すると。確かに自分は間違っているのかもしれない。だが平和な世界さえ実現されれば。それさえかなえられればほかには何もいらない。たとえ自分が悪になったとしても。それでも平和さえ実現できればいい。

「ならば、私を倒して見せろ」

 だからこそ。淳の気持ちをわかったからこそ白藤は本気で順を倒すと心に誓う。

 そして白藤は刀を鞘に納め、居合い抜きの構えを取る。

「勝負だ。浅野淳よ」

 白藤は

 刀を握り締め

 居合いぬく。

 

 

 淳はこの隙を見逃さなかった。白藤がいあいぬこうとした瞬間に最大パワーで水を飛ばした。このタイミングならば相手の居合いが抜かれるのと同時ぐらいに白藤に当てられる。能力者が意識を失えば能力が解除されるのは知っていたので恐怖はそこまでなかった。

「!」

 しかし白藤は百戦錬磨の男であった。ものすごい速さで居合い抜き、その結果生まれた風を刹那の時間もかけずに分散し、広げて幾つもの大きな風にすると淳の飛ばした水を押し返してしまった。そしてそのかぜをひとつにまとめ、また斬撃のような鋭いものに戻して淳の腹を切り裂いた。

 一瞬の隙を突きすべての力を攻撃にまわしていた淳はこれに対処することができない。淳はこの戦いで一番大きなダメージを負った。

 だがそれでも淳は倒れなかった。そして白藤が吹き返した水をもう一度白藤に向けて飛ばした。すんでのところで白藤はこれをよける。しかし淳は白藤めがけて駆け出していた。自身の周りに大きな水を作って。

 淳の能力は遠距離でも使える。だが距離が遠くなればなるほど弱くなってしまうのだ。反対にいえば淳に近ければ近いほど強く能力を使うことができる。そう、だからこそ、最後の一撃を与えるために淳は自身も白藤に向けて駆け出したのだ。自身の持つもっとも強い一撃を白藤に与えるために。

 先ほどの一撃をよけ、ほんの一瞬だけできてしまった隙をつかれた白藤はこの攻撃をよけることができない。反射的に周りにある風を瞬間的に集めてこの水とぶつけたが抑えることができなかった。

(やっ、た)

 結果的にこの攻撃は白藤にあたることはなかった。白藤に当たるまで後一メートルといったところで、淳が倒れたのだ。能力による制御を失った水はすごい勢いで白藤の目の前に落ちてゆく。

 淳は遠い昔に限界を超えていたのだ。それでも彼のみんなを助けたいという心があったから、ここまでこれた。白藤を追い詰めるまで。

 そう、淳は負けたのだ。

 

 

(私の負け、か)

 白藤は事実に反してそう思っていた。

 確かにぎりぎりのところで淳は力尽きた。だがもうほんのちょびっとでも淳が強かったなら。もし来週まで特訓を続けてから来ていたのなら。もう少し運がよかったのならば。

 そんなもしもはない。しかし白藤は思うのだった。ほかの要因がほんの少しでも淳の見方をしていれば自分は負けていたのだと。だからこそ白藤は

「この勝負、私の負けだ」

 淳に負けを認めた。

 

 

 思えば淳に対して質問したときにもう負けていたのかもしれない。あの時自分は間違っていると悟ってしまった。そのときは自分をごまかしていたが。

能力の戦いは心に左右されるところがかなりある。心の戦いでもあるのだ。その戦いで自分を信じて戦えるものと自分が間違っていると考えているもの。どちらが強い力を出せるかは明白だ。

 ならばこの負けは必然なのだろう。

 淳に負けた自分は彼の言ったとおりにする。すなわち力で強制的に平和を実現することを終わりにするのだ。ならばどうするか。決まっているではないか。どちらにしたって平和な世界は目指してゆく。ただ、間違った方法から正しい方法に変わるだけ。そうだ。自分の間違いを気づかせてくれたこの少年に感謝しなければならない。

そしてこの戦いにおけるすべてに決着をつけなければならない。そうしてやっと私は次に進める。

「決着を受けよう。貴行と私の戦いに」

「ああ、そうだな」

 部屋の入り口に立っていた赤羽はそう答えた。