
28
淳が目を覚ますとそこは見覚えのある場所であった。
「ここは?」
「お、やっと目覚めたか」
淳の寝ていたベッドの横でいすに座っていた赤羽が淳の目覚めに気づく。そう、ここは淳が以前世話になった保健室であった。
「あれ、勝負は。白藤さんはどう……」
言いかけて淳は悟った。ここに自分が寝ていて横には赤羽がいてくれている。だったら答えは簡単だ。
(僕は、負けたのか)
そう、淳は負けたのだ。そして赤羽にまた助けられた。
(僕は、僕は……)
「安心しろって。もうすべて終わったんだ。俺が白藤を倒した。お前があいつに傷を負わせてくれてたおかげでな。まったく、お前たちはすごいな。雄二のほうも何とか槍ってのに勝っちゃったらしいし」
そうか。雄二はちゃんと勝ったのか。あの四本槍に一人で。なのに自分は勝てなかった。結局また赤羽に助けられたのか。
淳はむなしくなってきた。自分の無力さに。あれだけ白藤に大見得を切ったというのに結局負けてしまった。
結局、自分は何も守れなかった。
「お、おい。どうした」
淳は泣き出してしまった。みっともないとも思ったが涙は止まらなかった。
「どうしたんだよ。もう終わったんだぞ。もうお前らが襲われることなんてないんだ。だから」
「違うんです。僕は、僕は何もできなかった。ぼくは無力なんです。それがとても、悲しくて、悔しくて。僕は、僕は……」
「どうして、そう思うんだ?」
「僕は雄二と約束したんです。僕が白藤さんを、雄二が苅部さんを倒すって。そして雄二はその約束を守りました。でも僕は、だめだった」
「雄二はできたのに自分はできなかったのが悔しいのか? だが仕方ない。相手は……」
「そうじゃないんです。僕は守りたかったんだ。みんなを。でも。でも僕はできなかった。弱かったから。だから。だから……」
泣きじゃくる淳に対し、赤羽は優しくこう答えた。
「たしかに今のお前は弱かったかもしれない。でもお前は正しかった。それだけじゃない。とても強いやつに立ち向かっていける勇気を持っていた。それはとても大切なことだ。どんなに強くたってそれがなけりゃあだめだからな」
「でもそれだけでもだめなんです」
「ああ。そうだな。だったら強くなればいい。今度は二度とこんなことにならないように。もう大切なものを守れないことなんかないように。強く」
赤羽は続ける。
「そして同時にお前のお前なりの正義を、信念を見つけていけ。強くて正しい心を持つことがお前にならできる」
「でも、僕は……」
「大丈夫だ。お前にならできる。最初から強いやつなんていない。俺もそうだった。だからお前がもし大切なものを守るために強くなりたいなら、そう願ってがんばれるなら大丈夫だ」
「……」
「失敗っていうものはしたっていいんだ。だいじなのは失敗をしないことじゃあない。失敗した後にどうするか、だ。ずっとうじうじしてまた大事なものが守れないなんて事、いやだろ」
「それは、いやです。もう絶対にこんなことは繰り返したくなんか、ありません」
「だったら強くなれ。お前がすべてを守れるぐらいまで。そして心も鍛えろ。その大切な気持ちをずっと持っておくために」
「強く、なれますか?」
「お前が本気でそれを望むなら」
「僕は、大切なものを守りたい。だから、だから強くなってみせます。正しく、そして、強い人に」
「ああ、その意気だ」
「ぼくは、きっと……。ううん、絶対に」
赤羽と話し終えるときの淳の目には先ほどの泣きじゃくっていた自信のなさは微塵も残っておらず、誓いに満ち溢れていた。
「あれ? 淳はどうしたんすか?」
赤羽が保健室からでると出口で待っていた雄二に話しかけられた。
「俺と話した後にばたっと倒れて寝ちゃったよ。まだ疲れが取れてなかったんだろうな」
「そうか」
うんうんと雄二はうなずく。
「先生。淳は白藤に一撃当ててたんすよね?」
「ああ。そうみたいだったな」
「もし俺が行ってたらたぶんそれ、無理だったとおもうんすよ」
「そんなことは……」
「お世辞はいらないっす。でも淳だからこそ白藤に一撃でも与えられた。俺じゃあ何も守れなかったかもしれないんだ」
雄二の言葉を赤羽は黙って聞く。
「だから先生。俺もっと強くなるよ。もっともっと強くなってやる。淳みたいに大切なもの全部守るとか俺は言えないけど。でも俺は自分の周りの人くらいは助けてやりたい。だから……」
「なるほど。それが俺と淳の話をきいてたどり着いたお前の答えか」
「え、知ってたんすか?」
「ふっ。まあね」
「あちゃー」
雄二は手を顔に当てて答える。
「強くなれよ、雄二。淳とともに」
「はい」
「そして誰よりもまっすぐに、な」
「はい」
ああ、それと、と赤羽は付け足した。
「それと今日のところは勘弁しておいてやるが明日はきっちりとしかってやるからな」
「げげ」
「ふふ、じゃあ淳がおきたら裏門に来るよう伝えておいてくれ。送って行ってやるよ」
「はいよ」
雄二の言葉を聴いて赤羽はくるっと反転し、裏門のほうに歩き出した。
(まったく、たいしたやつらだな)
そう思いながら。