
6
路地裏の広い広場のような場所に入った二人は距離を離す。そして互いに右手に何かを持つ。赤羽は剣を。そして黒コートの男は指の間に投げナイフのような刃物を3本。どうやらそれは医療用のメスのようだ。
するといきなり黒コートの男が赤羽めがけてメスを投げつける。いきなりだったがまるで予想していたかのように赤羽は軽々交わす。そして一気に男へ近づく。そのスピードは常人では見切れぬほど速い、超超高速移動だった。しかし男のほうもまるでそれを知っていたかのように冷静に対応する。
赤羽が男に近寄ると右手に持っていた剣で切りかかるが男は紙一重で、しかしらくらくかわす。同時に赤羽がいきなり横にそれる。それに一瞬送れて赤羽の後方からメスが赤羽のいたところに飛んでくる。そしてそのメスは男の前に来ると急停止する。そのメスを男はつかむ。
しばらく沈黙が場をつつむ。
男はふっと笑うと今度は両手にメスを3本ずつ持ち、それを赤羽に投げつける。
同時に赤羽も長超高速移動で男の後ろへ回り込む。
男は急に体を大きくそるとそこから先ほど投げたはずのメスのうち3本ほどが赤羽めがけて飛んでくる。
「ッ。」
赤羽はこのメスを右手の剣で叩き落すと周囲を見回し、先ほど男が投げたメスのありかを確認する。たった今赤羽がたたき起こしたメスが目の前に3本落ちており、残りは先ほど投げられた方向にある壁のすぐ下に落ちている。
「さすがですね。しかしそうでなくては。」
男がそういうと赤羽は男を強くにらむ。しかし言葉は発さない。なぜならば言葉を交わしているうちに気をとられかねないからだ。もちろん赤羽ほどの実力者なら話しながら戦うことは造作もないことだ。しかし何が敗因となるかはわからない。彼らが戦っているのはそういう次元の戦いなのだ。勝負がつくのは一瞬ではないものもある。しかしこの二人の戦いでは確実に一瞬で勝負がついてしまう。ゆえに赤羽は言葉を発さない。
男はクスリと笑うとコートを広げる。もちろんこの隙をつこうと思わない赤羽ではない。しかし男がコートを広げると同時に足元に落ちていたメスが突然赤羽めがけて飛んでくる。
無論赤羽はこれをよけ、そして男の背後に回るが男がコートを広げる時間を稼ぐには十二分すぎた。男のコートの中にはおびただしいほど多くの刃物が入っていた。それもメスや投げナイフなどどれも軽いものばかりだ。
「くそっ。」
せっかく男の背後に回った赤羽だったがいきなり距離を離す。理由は簡単だ。赤羽は男のコートの裏にたくさんの刃物があると知っていた。しかし今まではそれを男が操る気配がなかった。しかし今は違う。もし赤羽があそこで近づいていったらあのおびただしい数の刃物が自分に襲い掛かってくると予測したのだ。一度赤羽はそれで致命傷は避けたものの、大ダメージをおった経験がある。そのときは何とか勝てたが、そのときの傷の痛みは決して忘れることができない。
男のコートの中の刃物の半数がいきなり動き出し、男の前に浮く。それは見たものに恐怖と戦慄を覚えさせる、おぞましい光景だった。
「相変わらずだな、國生。いや、黒き闇医者と言うべきか。」
戦闘にはいって初めて赤羽が言葉を発する。もちろん警戒を決して緩めずに。
「くすくす。その名はよしてほしいですね、赤い死神。あなたと違って二つ名に何のプライドも抱いていませんからね。」
赤羽の言葉に男、國生響字(こくしょう きょうじ)は答える。しかしやはり赤羽と同様に警戒を一切緩めない。
互いが互いをけん制しあい、硬直状態が生まれていた。
雄二に殴りかかった男は淳たちに近づくと今度は雄二をゆすっていた淳を思い切りける。
「ッ。」
けられた淳はその場に丸くなりおなかを押さえる。
「ほらほら、どうした。とっとと能力を使いやがれよ。じゃなきゃ面白くねえだろうが。」
男はその場でニヤニヤ笑いながらたっている。
そのことに、そして親友が痛めつけられたことに雄二はとてもはらは立っていた。
「っのやろう!」
雄二はポケットからライターを取り出すと念じる。火よ、あの男をおそえと。
するとライターの火はものすごい勢いで男に向かって噴射される。
「そうこなっくっちゃな。」
男はその火をよけると雄二に向かって思い切り殴りかかる。
まさかよけられるとも、ましてや殴りかかってこられるなどおもってもみなかった雄二はその一撃を腹にもらってしまう。
「ごふっ。」
しかし今度の一撃は先ほどのものとダメージが違っていた。受けた雄二は今の攻撃が先ほどのものに比べて何倍も大きく感じたほどだ。
「くっはっはっはっは。どうだ、くらったか。俺の能力は自分が与える衝撃、もしくは与えられる衝撃のエネルギーの変化よ。今みたいに殴ったときの威力を強めたり、手前らの攻撃をむちゃくちゃ弱めたり自由自在よ。」
男は余裕から自分の能力を吐露する。その行為は能力者としては頭のいい行為とは言えなかったが、それでも男は自分の能力を言った相手に対し何度も勝ち続けている。そして相手は能力を覚えた手のヒヨッコ二人だ。楽勝だ、と男は考える。
しかし雄二は何とか立ち上がる。淳もいつの間にか立ち上がっている。
「そうだ。それでこそなぶりがいがあるってもんよ。」
淳はいつの間に出していたのか目の前に大量の水を浮かせていた。水がにごっているのを見る限り、どうやら下水のようだ。汚いがこの状況では四の五の言ってられない。
雄二もライターから火を操り、目の前で強く燃やす。
「雄二。」
「オッケー。わかった。」
言うと、雄二はまた男に向かって炎を飛ばす。
男は当然よける。
だが今度は二人に向かっていったりはしない。
その瞬間、淳の操る水が男に向かって飛んでいく。
「はっ、お見通しなんだよ。」
なるほど。男は雄二が作った隙に男が飛び込み、それにあわせて淳が男に攻撃するという作戦を見破ったようだ。この二人程度の実力なら操って思い切り飛ばしたものを急に方向転換できないと踏んで。
しかしその瞬間、男は背中にものすごい衝撃を受ける。
「なっ。」
この二人程度の実力なら思い切り飛ばしたものを急に方向転換できないはずである。なのにどうして後方からダメージを受けるのか。
男は気絶し倒れる。
確かに男の読みは半分当たっていた。二人の実力では思い切り飛ばしたものを急に方向転換できない。しかし、二つのものを同時に操ることぐらいなら何とかできるのだ。もちろんかなり精神エネルギーを使うが。
二人の作戦はこうであった。雄二が男に向かって攻撃を仕掛ける。それを男はよけるだろう。その瞬間に淳が目の前の水を飛ばす。しかしこの男ほどの実力ならそれもよけるだろう。だがその瞬間、男は思うだろう。もう攻撃は来ないと。その隙を突き第三の攻撃を仕掛けたのだ。男の真後ろから。作戦のはじめから淳が男の真後ろという死角で操っていたもうひとつの水で。雄二は淳にいわれたときこの水に気づき、淳の作戦を理解した。
しかしこれはある種のかけであることを淳も雄二も理解していた。この男の能力は自分の与える、もしくは自分に与えられる衝撃のコントロールである。もしこのコントロールがオートで働くようなものならば。男の意識に関係なく働くようなものならば。そうだったのならば確実に淳の第三の攻撃は弱められ、男を倒せなかった。そんな危うい賭けであった。
といったものの、淳には男の能力がオートでないという確信を持っていたし(そもそも基本的に能力は強く思うことで使うことができるということを知っていたためオートで発動するはずがないと思い確信できた)、この男を倒すためにはそんな危うい賭けをしなければ勝てなかっただろうとも思っていた。だからそのばで最善と思える判断を下したのだ。
いまさらながら失敗したときの恐怖や、戦いの恐怖に淳は腰が笑ってきてしまった。もうその場にへたり込んでしまいたかった。雄二を見ると彼も腰が笑っていておんなじような感じであった。
長くけん制状態が続く。これを破ったのは又も國生のほうだった。
目の前に浮かせていた多くの刃物を赤羽に向かって飛ばしてきたのだ。
赤羽はこれを何とかよける。そしていつの間にか手ぶらになっていた右腕を腰のそばに置き、手を開く。
同時に國生の上、下、左右に等間隔(約1m)に黒い闇の塊みたいな手の甲より小さなものが出現する。
「デス・クロス。」
言うと赤羽は開いていた右手の指を少し閉じる。同時に黒い闇の固まりは中心方向に伸びていき、十字を描く。
何とかぎりぎりでこれを國生は交わすがコートの先っぽのほうが十字にかすってしまい切り裂かれる。
(この技を知らなければ危なかったですね。)
しかしその瞬間赤羽が國生の前に高速で移動し、そしていつの間にか出した右手の剣で國生の腹を切りつける。
「くっ。」
思わずおなかを押さえる。
「ちっ、浅かったか。」
赤羽は悔やむ。今の攻撃でしとめられなかったことを。國生が傷つけば傷つくほど強くなる能力者だと知っているから。
國生は自分の血腹から出ている血を右手に集めるとそれをいきなり周囲に撒き散らし始めた。すると突然、そこらへんにあった岩や石などが動き始める。共通項は國生の血がついているということだ。
そう、彼こそが赤羽が以前いっていた自分の血のついたものを自由に操ることができる能力者なのだ。操るものの質量や体積に比例してつく必要のある血が増えていくが(ついている血が足りないと動かない)、無生物かつ固体であればなんでも操ることができるのだ。ちなみに固体ではないが自分の血も体外に出た瞬間から自由に操ることができる。
この能力のため、彼は傷ついて血が出れば出るほど強くなる。もちろん付加能力によって傷をつけずして体の好きなところから血を出すことができるがわざわざ自分を窮地に追いやる気はない。ゆえにいつもはコートの中に自分の血を事前につけておいてる刃物で戦うのだ。
そして國生が周囲にある刃物や岩などを操ろうとした瞬間、通りへ続く道から淳と雄二が来た。
赤羽には左、國生には右とお互いの横にある道から来たので二人ともが視認できた。
「お前ら。なぜここに。」
動揺を何とか抑えつつ、國生に対する警戒を怠らないように彼をにらみながら淳たちに話しかける。
「え?いや。その。」
「俺たちになんか変な能力者が襲い掛かって来たんすよ。そんで、先生が心配になって淳と話してくることにしたんす。」
赤羽の怒気に当たられた淳の代わりに雄二が説明する。
「ほう。ひょっとしてあなたたちはあの江田を倒してきたのですか?」
赤羽根とは違う驚きを見せながら二人に國生は問う。
「え、えと。あの人が江田っていうかは知りませんけど衝撃をコントロールするとか言う能力者は倒しました。」
淳が何とか答える。
すると國生は笑い出す。
「フフフ。そうですか。あなたたちが……。なるほど。では、ここは引くとしましょうかね。」
「なに!?」
國生の言葉に赤羽は驚愕をあらわにする。
「フフ、たいしたことではありませんよ。もともと彼が交渉する際に来る邪魔者に交渉の邪魔をさせないように、と雇われたのですから。交渉が終わったとなれば私の仕事はおしまいです。それに私たちの戦いに彼らを巻き込んでしまえば確実に彼らの命はないでしょうからね。それはとてももったいない。」
はてなマークの出ている淳と雄二に赤羽は説明する。
「こいつはバトルマニアだからな。お前たちもとても強くなるだろうと見越してここは見逃してくれるそうだ。つまりお前らはこいつのお気に入りになったってことだ。」
淳たちはやはりわけがわからなかった。
「一番はあなたですけどね。」
國生はつぶやくと傷もそのままに彼らの前から消えていくのだった。
「そうか。やはり江田は交渉を失敗したか。」
「はい。そのようです。」
非常に豪華なつくりの豪華な家具が並ぶ部屋の一室に貴族風の男と執事のような男が立っていた。
「國生の報告では浅野、谷本の両名によって江田は倒された模様です。しかし江田の消息はつかめておりません。ああ見えて勘の鋭い男ですからご主人様の粛清を察して逃げたのかと。」
「そうか。」
貴族風の男は豪華な机の上の豪華なティーカップを手に取り、とても香ばしい香りのする紅茶に口をつける。
「しかし、それで彼らもわれわれの敵となってしまったのか。江田を倒すほどの実力と才能。実に惜しいが。」
貴族風の男はティーカップを皿の上に置くと続ける。
「刺客を送っておけ。彼らがわれらに敵意を持たないよう痛いめを見てもらわなくては。」
「了解いたしました。」
いうと執事風の男は部屋から出て行った。
「今最大の関門は赤い死神だな。」
男は大きな窓から夕日を見上げながら思うのだった。