
8
淳たちは学校からの帰路についていた。
土曜日で学校が午前中だけで終わっていたので、赤羽と話した後でもまだ日はまったく落ちていない。
「しかし本当に何にも裏がなかったんだな、あの先行。」
「悪い人じゃあなさそうだったしね。」
淳たちは今日赤羽から聞いた情報を互いに話し合うことで整理している。
「でもあの先行の実力ってどのくらいなんだろうな。お前は間近で戦ってるところを見たんだろ?」
「見たといえば見たけど。でも先生本気出してなかったみたいだし、それに目が追いつけなかったし。」
「ふーん。まあ俺たちではまだまだ到底かなわないってことか。いつか倒せる日が来るかな?」
「どうだろ。わからないや。」
淳はサッパリとした感じで答える。
確かにまだ能力者として日の浅い彼らが能力者がどのくらい成長していけるのかなんてわかりようもない話しである。
「お。あいつらじゃねえ?はっけーん。」
「ええそうね。彼らみたい。」
とそこへ見知らぬ二人組みが淳たちの前に立つ。
「へー。おまえらが。ふーん。」
目つきの鋭いめがねをかけたホストのような格好をした男が品定めをするように前のめりになり淳たちを見渡す。
「いいこと。油断しちゃ駄目よ。」
そこへ大柄のいいタンクトップの男が声をかける。
「は。わかってるって。もう何度もきいたっつうの。」
いきなり現れた男たちに淳たちは呆然としていたが、雄二は男たちに問う。
「あんたら、いったい誰だよ。」
すると大柄の男笑みを浮かべながら答える。
「ふふふ。私たちはブレイザ・ブリクの一員よ。」
「ブレイザ・ブリク?」
聞いたことのない名前に淳たちは聞き返してしまう。
そんな彼らの様子を見て大柄の男は続ける。
「あら、あなたたちってば敵対している組織の名前も知らないの?駄目じゃない、それぐらいはちゃーんと調べておかなきゃ。いつか痛い目見るときが来るわよ。」
「まあ、今から痛い目みるんだけどな。」
淳たちが敵対している組織、それはもちろん昨日襲ってきた江田の所属していた(淳たちは江田が脱退していることを知らないが)組織のことである。
彼らとの会話で淳たちもそのことを認知したようだ。
「痛い目見るってどういうことだよ。」
雄二は強気で二人に話しかける。
「ふん。そんなこと決まってるだろ。お前たちが俺たちに逆らうことがないように適度に痛めつけてやるんだよ。」
「ま、まって。確かに昨日江田って人を倒したけど、あれはむこうから襲ってきたんだ。だから…。」
「そうか。でもそんなこともう関係ねえんだよ。残念だがお前たちはしっかりと俺たちの敵って決まっちゃったんだよ。」
すると目つきの悪い男の周囲に三つの竜巻が生まれる。大体、高さが60センチくらいだろうか。
そしてそのうちのひとつが淳たちに向かって飛んでくる。
「!!」
すかさず淳たちはその竜巻をよける。
「はっ。このくらいでいいきになるなよ。」
男は残りの二つの竜巻を淳と雄二それぞれに飛ばしてくる。淳たちはこれをよけようとする。だが。
(か、体が…。)
(うごかねぇ。)
淳たちは飛んでくる竜巻に吹き飛ばされる。
「いいこと、まだ油断しちゃ駄目よ。」
いつの間にかタンクトップの男は淳と雄二に向かってその場で手を伸ばし、十本の指すべてを内側に折り曲げている。指の開け方はグーとパーとの中間くらいだった。
「わかってるっつってんだろ。何百回目だよ。いい加減聞き飽きるどころか反抗したくなってきちゃうっての。」
男はそんな軽口をたたきながら、今度は自身の周囲に四つ竜巻を作る。
「しっかり止めとけよ。」
男は仲間にいい、そして今度は竜巻を二つずつ淳と雄二に飛ばしてくる。
淳たちはようやく立ち上がったところなのでこれに反応するのが遅れてしまうが、それでも普通ならよけれる程度の早さだった。スピード的にはゆっくり投げつけられたボールくらいの速さだからだ。しかし彼らはまた、金縛りにあう。そして今度は二つの竜巻に当たってしまい、大きく吹き飛ばされる。
「くそ。」
「なんだってんだ。」
淳たちはホスト風の男が竜巻を操る能力者だということはわかっていたが、タンクトップの男が相手に金縛りをかける能力者だということに気づいていなかった。
もし彼らがもう少し能力者として経験があったならばすぐにそのことを理解、だけでなく限定条件として相手のほうへ腕を伸ばし、指を少し曲げるというものまで近くできただろうが(といってもこの動作が何の意味もないただのブラフという可能性もあるが)、彼らは経験がほとんどなかった。故にこの金縛りの現象がただただ意味不明で、能力だという考えにもいたらなかった。仕方のないことではあるが。
「そろそろ止めを刺しちゃってくれる?もうすぐ限界よ。」
タンクトップの男は少し息を切らしながらホスト風の男に言う。
「ああ。わかった。じゃあお前らお二人さんにいっておくぜ。今後俺たちにはそっちから一切かかわらないことだ。いいな?」
そして男は周囲に今度は八つの竜巻を生み出す。
それを見た淳は思わず恐怖する。
それを見た雄二は思わず舌打ちをする。
どちらも完全にあきらめていた。
能力者として実力の差が大きいことを二人は痛感していた。
もはや金縛りにかかっていなくとも動こうとすらしなかった。
そして、八つの竜巻が二人に飛んでくる。
「一閃」
飛んできた竜巻が何者かが持っている光の剣によって断ち切られる。竜巻は横一列に並んでおり、四つずつ淳と雄二に襲いかかろうとしていた。しかしその列になっていた竜巻を光の剣によって切り裂いたのだ。切り裂くときの剣は長く、きり終わると収縮して普通の刀くらいの長さになった。
「せ、先生。」
そこにいたのは赤羽だった。赤羽が淳たちに飛んできた竜巻を切り裂いたのだ。
「大丈夫か?」
その言葉に淳たちは安堵する。
「げ。まじかよ。赤い死神がきちゃったよ。おい、どうする?」
「どうするもこうするもないでしょ。あれだけにらまれてるんだからただで逃がしてくれるわけないでしょ。」
「ってことは、戦闘ってことでいいんだな?」
「仕方ないわね。」
言うと二人は赤羽に対して一気に警戒する。そしてホスト風の男が赤羽に対してその場で生み出した二つの竜巻を飛ばしてくる。
「!!」
そしてタンクトップの男が赤羽を止めようとした瞬間、赤羽は消えていた。
「ど、どこに消えたの!?」
ドスッ。
いつの間にかタンクトップの男の背後を取っていた赤羽は男の首に手刀を打ち込む。男はその一撃で倒れてしまう。
「ふ。これでお前あと一人だ。お前の能力はもうわかっている。お前では俺は倒せん。だから降参しろ。」
「降参したら許してくれんのかよ?」
「まさか。」
「じゃあできねえよ!」
そして男は赤羽に向かい、もう一度生み出した二つの竜巻を飛ばす。しかし今度は赤羽がいつの間にか持っていた西洋風の両刃の剣によって消される。
「くそっ。くそっ。」
男はしつこく竜巻を飛ばしてくるがすべて剣によってかき消される。
「終わりだ。」
赤羽は男の前に立つと男のはらを思い切り殴る。
「ぐほぁ。」
男は腹を抱えこみうずくまる。
「お前にはいくつか聞きたいことがあるから聞かせてもらおうか。まずお前たちのグループはどれぐらいの人数なんだ?又、その内能力者はどれくらいいるんだ。」
「ぐ、ぐほ。」
男は腹を抱えたままなにも答えない。
「こたえろ!」
「ふ、ふふふ。俺が本当に答えるとでも思ってんのか?だったら残念だったな。俺は俺たちの仲間、いやわれらが盟主の不利になるようなことは死んでも、たとえ死ぬことよりひどいことをされてもいわねえ。」
「なんだと?」
赤羽はこのことは予期していなかった。彼らがそこまで彼らのリーダーに対して思っているとは思わなかったのだ。
「だったら本当に痛い目見せるぞ。」
「ああ。やってみな。」
「……。」
もう赤羽は悟っていた。彼の目から。彼の言っていることが本当だということを。彼の目はあまりにもまっすぐすぎた。
「もういい。だったら答えられることだけ答えろ。」
「はっ。お前らに答えることなんてほとんどねえよ。あるとすればそうだな…。われらの盟主の名前ぐらいかな。」
「言え。」
「聞いておののけ。われらが盟主は『気高き純白』白藤総介様よ。いくらお前があの赤い死神だろうとわれらが盟主には勝てねえよ。」
「白藤総介だと…。」
予想外の答えに赤羽は驚愕する。
「ってことだ。後は俺らを煮るなり焼くなり好きにすればいいさ。」
男はそういっててを横に広げ完全に無防備になる。
「もう二度と俺や彼らに手を出さないと約束しろ。そうすればお前たちを見逃してやろう。」
赤羽のその答えに男は少し驚く。
「なんだと!?いいのかよ?ここではうそ言っといてまたあいつらを狙うかも知れねえんだぜ?なのにそんなこと言ちゃっていいのかよ?」
「お前たちが気高き純白に対してものすごい敬意を払ってるのはわかる。そんなやつらが勝者との約束を簡単に破るとは思えないからな。だいいち、お前らが本当に俺をだますつもりならそんなことは言わないだろ。」
男は黙り込む。こんなことは想定していなかったからだ。淳たちを襲う際、赤羽が出てくる可能性も彼らは当然考えていた。そしてもし戦闘となりさらに彼に負けるならば当然死も覚悟していた。しかし実際はどうだ?確かに赤羽が出てきて戦闘になり、敗北した。にもかかわらず生かしてくれるとまで言う。
男はそんな赤羽の案に対してのることにした。敗者が勝者の言うことを聞くことは戦闘に身をささげるものにとって当然だと考えたたからだ。
「けっ。わかったよ、乗ってやるその案。だがせいぜい気をつけるんだな。俺は戦闘要員としてそこまで上のランクじゃあねえからな。」
言って男はタンクトップの男をよっこらせっと背負い、赤羽たちの前から姿を消すのだった。
豪華な部屋にいる、貴族風の男は驚いたように執事風の男に問い返す。
「なに!?あの二人がやられただと?あの二人の実力ならば能力者になりたてなど軽くねじ伏せられるはずだ。」
「はい。どうやら途中で赤い死神が乱入してきたらしく、二人は赤い死神によってやられたようです。」
執事風の男から返答を聞くと貴族風の男は顔をしかめて考え込む。
「そうだな。あちらにはあの赤い死神がいるのだからある意味当然の結果ともいえる。仕方ない。四本槍を動かす。」
執事風の男は貴族風の男のこの言葉に驚いてしまう。
「よ、四本槍を使うですと!?確かにあの赤い死神がいるようですが、あちらの隙を突けばひよっこごときはつぶせます。それをわざわざ……。」
「いや、だからこそだ。四本槍クラスでないとあの赤い死神の隙はつけん。ということだ。さっそく四本槍の……。そうだな、漣に連絡をとっておいてくれ。あいてに痛い目をあわせるぐらいうまく手加減できるやつだからな。プライドが大きいことが心配ではあるが、まあ大丈夫だろう。」
「かしこまりました。ところで帰ってきたあの二人の処分はいかように?」
「ふ。彼らは別に私に反抗を抱いているわけではないんだ。一度の失敗くらい目を瞑ろう。むしろ彼らには私にここまで信頼を寄せてくれてありがたいと思っているほどだからな。」
貴族風の男は言うとその部屋から出て行くのだった。